桐谷流マッサージ戦法

将棋世界1991年9月号、青野照市八段(当時)の「これが彼らしい一手 桐谷流マッサージ戦法」より。

 奨励会の入会時に、三通りのグループがあることは、前号で述べた。すなわち10歳~13歳組(小中学生)、15歳組(中学卒業後)、18歳組(高校卒業後)だ。

 そのうち、表題の”彼らしい感覚”というのが、顕著に現れるのは、エリートである早学組よりもむしろ、晩学組の方である。

 Aクラスに昇った棋士で考えてみても、故・花村九段、関根九段、森九段などは、遅く入ったせいか、皆、純粋培養組とは違う、独特の将棋観があるように思う。

 桐谷広人六段もその一人である。彼は18歳、すなわち高校卒業後の奨励会入会で、なおかつ塾生(将棋会館への住み込みの奨励会員)経験者である。

 だいたいにおいて、晩学組ほど棋理、特に駒の損得などを、重要視する傾向にある。

 無論、無条件の駒得なら誰だって飛びつくし、無条件の駒損はやらない。ただし、そこにいろいろな要素がからむと、人それぞれの価値判断が違ってくる。

 彼は、『コンピュータ桐谷』として他人の将棋をよく覚えていることで知られるが、プロ仲間ではもう一つ、駒得が大好きなことで知られている。

 彼の将棋を見ると、中・終盤においては、ほとんど駒得となっていることが多い。ただし、そのかわりに駒がゆがんでいたり、駒がソッポになっていたりして、プロ仲間からすると「信じられない所に駒がいる」ということになるのだが、本人はいっこうに気にしていない。

 つまり、俗に言う筋の良い棋士なら、考えもしないで捨ててしまう筋を、彼は追求し、悪くないと思えば実行するタイプなのである。従って、それがツボに入った時には、「まさかこんな手で」という手で悪くなって、負かされることがある。

 1図は、今年の2月の王将戦における、鈴木輝彦七段との一戦で、流行の角換わり腰掛銀から、今、後手が△8五飛と走ってきた局面(都合上先後逆)。

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 ここで他の棋士ならどう指すかは、議論の分かれるところかも知れない。しかし、次の2図に至る手順を考え出すのは、プロ棋界広しと言えども、彼だけなのだと思う。

1図以下の指し手

▲6一角△6三銀▲7七桂△8一飛▲5二角成△同銀▲7二金 (2図)

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 ▲6一角自体は、それ程奇異な手ではない。△6二金なら3四へ角が成れるし、△4二金右なら▲7二角成の予定だろう。

 △6三銀の受けは、案外軽視したのかも知れない。▲6一角に75分の長考の次に、また27分の長考だからである。

 しかし、もしウッカリだとしても、▲7七桂と跳ね、△8一飛に角を切ってからの▲7二金は、実に考えにくい手である。普通は▲7二金では、▲2四飛ぐらいの手を考えそうだ。

 ▲7二金は、先にまず駒得をし、後は受けて(切らして)勝つという戦法で、これをマッサージ戦法と呼ぶそうである。

 2図で△8三飛なら、▲8四歩△9三飛に▲8二金と、飛車を取りに来られて後手が悪い。

 そこで図以下、後手は△4一飛と逃げ、▲7三金に△4四飛と浮いたが、▲6二金△4一銀に▲5三桂不成が好手で、打った金の顔が立ってきた。

 ▲5三桂不成に、△4九飛成の王手なら、逆に▲5九金とはじく手がある。そこで後手は△2三銀と壁銀を直したのだが、▲4五歩が打てては、先手が面白そうだ。

 以下の桐谷六段の終盤戦も、駒得を重視した独特の寄せで、この将棋を勝ち切った。

 ただしこの将棋、厳密には先手が良かったかどうかは分からない。たとえば2図で、△4一飛▲7三金の後、△5一角と打って▲6二金を消せば、先手も容易でなかったと思う。

 彼はこういうタイプだから、大きな駒得をしながら、ひどい場所に駒を使わされ、いわゆる駒の効率の悪い形となって負けることもある。

 この将棋の金打ちなども、現代の若手(だけではないかも知れないが)から見たら、顔をそむけたくなる手かも知れない。

 しかし、将棋とはいろいろな可能性を秘めたゲームである。彼のような感覚の棋士が、バリバリ勝ち出したら、また将棋の考え方が変わってくるようにも思えるのである。

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角と金・桂の交換なので先手の駒得となるが、金を手放すことになるので、▲7二金は相当な強い信念を持っていなければ指せない手だ。

敵の攻め駒を攻撃して駒得をはかり、攻撃力を削いで受け切る、あるいは入玉を狙うのがマッサージ戦法。

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「敵の攻め駒を攻める」のがマッサージ戦法なら、「敵の攻め駒を責める」のが木村一基八段の受け。

敵の攻め駒をターゲットとするのはマッサージ戦法と同様だが、木村八段の受けは、相手の攻めを呼び込み、ギリギリのところでしのぐタイプ。

踏み込んで相手の攻めを切らすという点で、マッサージ戦法とは大きく思想が異なる。

様々なスタイルがあるのが将棋の面白いところだ。

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テレビで大人気の桐谷広人七段。

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