中村修八段(当時)と炬燵

将棋マガジン1995年3月号、中村修八段(当時)の「序盤戦に勝つ考え方」より。

近代将棋1995年6月号より、撮影は弦巻勝さん。

 暖冬という予想に反して寒い日が続いています。「昨夏の熱帯夜を思い出せば寒い方がまだいい」と思いつつも外での活動がどうしても減ってきます。11月の初め頃から2ヵ月あまり風邪が抜けず、寒さに体力もうばわれたせいか、なかなか治りませんでした。12月22日に奨励会恒例のマラソン大会があったのですが、今回は練習不足もあり参加できませんでした。前回は雨の中5.5キロ完走したのに…(20人中20位でしたが)。

 そんな訳でという事もないのですが、最近時々コタツに入ってミカンを食べながら俳句を作る時があります。妻が入っている俳句の会におまけで投句させてもらっているのですが、実際、生まれてこのかた作った事がなかったので非常に新鮮に感じます。それと同時に、自分自身がいかに四季の移り変わりや、日々のうつろいに無関心かという事が分かりました。「今日は何曜日だったっけ」という言葉が挨拶になったりする世界だからかもしれません。そんな訳で私の俳句は当然ながら身近なものにしか関心が向かないのです。

”あと5分ふとん引き合う冬の朝”

”さくらもちほろ酔い加減の妻に似て”

 こんな俳句を作っては、会の方々に苦笑されているのです。

 さて、そろそろ本題に入りましょう。今回のテーマは「駒の働きを重視せよ」です。駒落ちの下手を持って指した事のある方なら分かると思いますが、上手の駒が少ないにもかかわらず、勢いのある事に気付くはずです。特に上手の歩の使い方は参考になるでしょう。

(以下略)

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「『昨夏の熱帯夜を思い出せば寒い方がまだいい』と思いつつも外での活動がどうしても減ってきます」

たしかに寒い時は、このように考えて耐えることが多い。

もちろん、あの暑かった夏と気温を足して2で割ってほしいと考えることも多い。

冬の場合は「寒ければ着込めば寒さが緩和できるが、暑い日は裸になっても暑いままなので、寒い方がまだいい」と、寒さに甘んじる考え方もある。

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「前回は雨の中5.5キロ完走したのに…(20人中20位でしたが)」

中村修八段(当時)は奨励会幹事だったので、マラソンが得意かどうかは別として、奨励会マラソン大会に参加していたのだろう。ブービーメーカーになったのは理想的な展開だったとも考えられる。

もう一人の奨励会幹事の小林宏五段(当時)はバリバリのアスリートなので、参加すると1位になりかねなく、走っていなかった可能性が高い。

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「最近時々コタツに入ってミカンを食べながら俳句を作る時があります」

酷暑や極寒のもと俳句を作るのと、桃源郷のような炬燵の中で俳句を作るのとでは、作風が大きく変わってくるだろう。

中村修八段の俳句は、まさに桃源郷のような幸せな情景を詠んでいる。