マイナビ女子オープン挑戦者決定戦、中村真梨花女流二段-岩根忍女流初段は、岩根忍女流初段が勝ち、挑戦権を獲得するとともに二段に昇段した。
岩根忍女流二段は4月17日の第1局後の5月初旬に出産をむかえるということで、早朝のフジテレビのニュースでも取り上げられていた。
4月17日の第1局はマスコミ各社が多数取材に訪れるのではないだろうか。
ところで、昨日のネット中継にも感心した。昨年の北海道新聞の王位戦の中継は、新聞社担当者にしかできないマスコミの視点での魅力的な中継であったし、最近の無料中継では、竜王戦、王将戦、朝日杯将棋オープン戦、女流最強戦、天河戦は、ネット中継を創成期から支えてきた中継記者にしかできない、素晴らしい中継だと思う。
歴史的には、2001年度の将棋ペンクラブ大賞特別賞の竜王戦インターネット中継(武者野勝巳七段が手掛けられていていた)が、何もないカオスの状態から、解説や写真のあるネット中継の原型を創った。明治維新でいえば吉田松陰や高杉晋作、坂本竜馬にあたる。
その後、現在活躍されているネット中継記者の方々が、多くの棋戦での中継を経ながら試行錯誤を繰り返し、最新テクノロジーを駆使して新しい道を確立してきた。日本史的には、明治維新から現在にまで至る位置付けと思う。
昨日の中継で、良いと感じた文章を取り上げてみる。
「両者の過去の対戦2局は、いずれも中村・四間飛車VS岩根・居飛車穴熊。」
やはり、はじめにこういう説明があるのが有り難い。基本中の基本。
「岩根は三間飛車。岩根はあと8勝で女流二段昇段だが……。その前に今日勝てば、タイトル挑戦の規定を満たして、二段昇段が決まる。」
こういう情報も嬉しいものだ。
「中村は向かい飛車。相振り飛車の場合には、実際には飛車は向かい合っていないのだが、それでもこの位置は慣用的に向かい飛車と呼ばれる。」
このような、遊びがある文章もなかなかいい。
「『へえ、積極的にねえ』と控え室の声。」
控え室はネット中継のネタの宝庫。私も数年前に連盟の控室へ入ったことがあったが、この時は、ポロシャツ姿の羽生名人と佐藤棋王が向かい合って検討していた。それをTシャツ姿の先崎八段がニコニコ見ている。
控え室の雰囲気をいかにうまく、かつ的確に伝えるかが腕の見せ所。
棋譜解説の会話をそのまま載せるのではなく、記者の頭の中で考えて、いかに文章にするか、これが中継記者の付加価値の一つでもある。
『へえ、積極的にねえ』の短い文で、なにかわからないが、そういう雰囲気が伝わってくる。
今回は控え室の写真も豊富で、これも楽しい。
「両者ともに昼食の注文はなし。担当記者によれば、今期マイナビ本戦で昼食の注文があったのは、長沢千和子四段のたぬきうどんのみ。」
私は食べ物にも興味があるほうなので、こういうのも嬉しい。
「控え室ではしきりと、相振り飛車は難しいという話に。盤面3つのうち、1つは左右反転したもの。相居飛車感覚で局面を把握してみようという定跡だが、そう並べ替えてみても相居飛車では出現しそうにもない局面となる。」
左右反転は、2004年度将棋ペンクラブ大賞一般部門佳作の山岸浩史さんの「盤上のトリビア/将棋世界誌連載」で初めて取り上げられたテーマで、それが実践されているということは面白い。
「『歩は打たないと思いますよ!』
ある関係者が断言したところに、岩根が歩を打ったので、控え室で大きな笑いが起きた。」
「控え室では、山田久美女流三段、本田小百合女流二段、井道千尋女流初段、野田澤彩乃女流1級、熊倉紫野女流1級、渡辺弥生女流2級が検討しており華やか。」
控室情報は多ければ多いほど良いと言っても過言ではない。
「しかし、わき腹に爆弾を抱えたような不安が付きまとっている。」
こういう例え話が感覚的にわかりやすい。
「『あ、ダメだ』の声が上がった。△同龍▲同玉△2七角が王手竜取りだ。」
簡潔かつ明瞭。ネット中継ならではの名文。