将棋ペンクラブ会報「新春対談」余話(前編)

2006年の将棋ペンクラブ会報「新春対談」のゲストは林葉直子さんだったが、林葉さんに対談をお願いするきっかけとなったのは、その前年2月の、中井広恵女流六段と高田宏 前・将棋ペンクラブ会長の対談だった。

(2005年の対談より抜粋・編集)

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高田 林葉さんのことをお聞きしたいと思うんですが、お二人は仲が良かったんですよね。

中井 はい。

高田 中井さんと林葉さんのレディースオープンの観戦記をやったことがあるんです。で、その少し後かな、どこか地下鉄のホームで林葉さんとバッタリ遇ったんですが、随分向こうにいた林葉さんがこちらへみえて、きちんとしたお辞儀をなさってご挨拶をされたんです。僕は礼儀正しいお嬢さんだなと思ってとても感心したことがあったんです。だからその後の諸問題、その時は予測不可能で・・・男女の仲は確かにいろいろあるからいいんだけど、セミヌードとかその辺は林葉さんから僕は想像ができなかった。林葉さんは礼儀正しい人でしょう?

中井 そうですね、礼儀正しかったですね。それと皆に好かれていました。ああいう性格だし気さくだし。友人も多くて、だから皆がっかりしているんじゃないでしょうか。

高田 その後のことが。

中井 タレントさんのように回りでアドバイスしたりサポートしたりという人たちが、彼女の周りにいたら良かったんでしょうね。私も詳しい話を彼女とはできませんでした。

(中略)

高田 かつては中井さんと林葉さんといえばいいライバルでもありいいお友達でもあったわけで、お二人で女流将棋を引っ張っていらした時期があります。非常に大きな功績を林葉さんも残しておられるんです。

中井 そうですね。現役中は口に出せなかったような待遇的な不満とか、そういうこともあったんだと思います。当時は今以上に女流棋士が少なかったですし、立場的にも今より弱かったし…ある意味では彼女が先頭に立って女流棋界を引っ張ってきたということもあって、立場をもっと良くしたいという考えを持ってました。

高田 僕は何かの折に林葉さんの名誉回復しておきたいという気はあるんですよ。本当はすごく素敵な人なんだよということを。

中井 私も仲が良かったですし、彼女は決して悪い子ではないので、あの頃の直子ちゃんを見ているのが辛かったんです。彼女が幸せそうでもなかったし、周りからもそういう目で見られちゃうのは・・・ただ、彼女も色々あったんですが今六本木でカレー屋さんを一所懸命やっています。

高田 じゃあ安心ですね。

中井 本当に幸せになってくれるのが一番の願いなので。

高田 そうですね、カレー屋さんが大儲けしなくていいから・・・

中井 大儲けできれば一番いいですけどね(笑)。ただ女性としても幸せになってもらいたいです。

(以下略)

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テープ起こしの担当でこの対談を横で聞いていた私は、翌年の対談のゲストが林葉さんになったら最高だろうな、と思った。

(つづく)

林葉流の絶妙手

林葉直子さんらしい一手を。

近代将棋1996年3月号、故・小室明さんの「棋界フィールドワーク 女流棋士、この一手」より。

1993年レディースオープン準決勝、中井広恵女流名人-林葉直子倉敷藤花戦。

(太字は小室さんの文章)

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次に△7四桂をみせられた中井は▲6五香と桂を外した。それでも林葉は△7四桂と打ち、

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▲5六飛に

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△6六桂とジャンプ!!

瞬間、中井は「アレッ」という顔つきになった。王手金取りなのだ。これは▲6六同歩と取るよりないが、林葉は「サンキュー」とばかりに金を奪い、△9六飛と走る。

(中略)

盤上に極上のトリックを盛り込んで敵を幻惑し、悩まし気なため息を何度かついて、きれいに詰ます。そしてキツネにつままれたような短い感想戦をもって対局を終える。

これが林葉の将棋に対する流儀であり後にも先にもないユニークな存在であった。

結果論的に言えば、最初の図の局面で、▲9二歩と飛車先を押さえたり、▲8四成香と引いておけば、この攻めには遇わなかったことになるが、

▲9二歩は△7一飛とされ、すぐにでも▲7二成香と入りたいにもかかわらず、その妨げとなり、▲8四成香は、飛車先を更に重くする筋の悪い手なので、通常であれば読みに含まれない手なのだと思う。

まさしく盤上のトリックであり、見せる将棋だ。