味のしない食事、味のある食事

屋敷伸之七段(当時)が三浦弘行棋聖(当時)から棋聖位を奪取した1997年棋聖戦第4局での出来事。

将棋世界1997年9月号、野口健二さんの棋聖戦第4局「構想が敗因」より。

 第6図で再び休憩に入った。対局者は自室での夕食だが、三浦にとってはさぞかし味気ない食事だろうと思っていた。

(中略)

 三浦の指し手が早いのに比べ、屋敷は小刻みに時間を使っていく。棋譜を取りに対局室に入った主催紙の記者によれば、三浦は控えの間のソファーに座りパタパタと扇子をあおいで、諦めムードとのこと。

 これは翌日聞いた話だが、三浦はこの将棋はもうダメなので食べるしか楽しみがないと、夕食を全部平らげたそうだ。この図太さと、繊細な神経が同居しているところが面白い。

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一日制タイトル戦の夕食は、通常なら局面が緊迫している関係から、優勢であったとしても、味わうというよりも薬でも飲むのに近い感覚なのだろう。

棋聖を失う直前の食事。様々な感情や感傷を断ち切って食事に集中できるところが、三浦八段の頼もしいところだ。

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味のしない食事で思い出されるのが、入学試験当日の昼食。

高校入試の日の昼食は、何を食べたのか覚えていないほど味を感じなかった。

入試の日というのは、ある意味で棋士にとっての対局日と同じようなものだ。

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大学入試の時は、東京の私立大学と地元仙台の国立大学を受験した。

東京の私立大学の試験は三科目だったので昼食時間は設けられていなかった。

そして3月に国立大学の試験。

六科目(現代国語、日本史、数学、物理、化学、英語)だったので、昼食時間が設定されている。

ところで私は、数学と現代国語はかなり得意科目だったものの、日本史・物理・化学は赤点レベル。

数学が面白くて数学ばかり勉強していた結果だが、これでは国立大学に受かるはずがないし受かるとも全く考えていなかった。

2月に受験した私立大学に合格していたこともあって、国立大の試験は見物気分。

昼食は、母親が作ってくれたカツサンド。

合格しようと入試に臨んで食べていたなら味がしなかっただろうが、初めから割り切っていたので、大学の外の景色を見ながら食べるカツサンドは絶品だった。

もちろん、その入試は落ちた。

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私がかなり若い頃、憧れている女性と一緒に食べる食事も味がしなかった。

心の余裕がなかったというか緊張していたというか・・・

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これは私だけの感じ方かもしれないが、普段の時でも味がしないのがトルコ料理。

サラダは生野菜のままだし、ドネルケバブ(屑肉を固まりにし、回転させながら焼いたもの)も味付けがされていない。

たまたま入ったトルコ料理店がそうだったのかもしれないが。

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トルコライスという、トルコとは全く関係のない日本の洋食がある。

カレー味ピラフ、ナポリタンスパゲティ、ドミグラスソースのかかった豚カツというのが最も一般的な組み合わせだという。

ネーミングも含めて発祥は不明で、長崎で1950年代に誕生したという説もある。

私が子供の頃、デパートの食堂にトルコライスがあって、よく食べていた思い出がある。

ケチャップがかかったウインナーソーセージとチキンライスの組み合わせだったような感じがする。

お子様ランチではなくトルコライスを憶えているのだから、美味しかったのだろう。

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最近では東京のレストランでトルコライスを見かけることは少なくなったが、メニューに載せている店もある。

その代表例が、西落合にあるレストラン「香港」。

「香港」は私が絶賛する洋食店で、このブログでも詳細を紹介したことがある。

バトルロイヤル風間さんと10時間飲む(1)

バトルロイヤル風間さんと10時間飲む(2)

「香港」のトルコライスは、ケチャップライスの上にカレーとトンカツを乗せたもの。

簡単に言えば、カツカレーの白いご飯をケチャップライスに変えたものだ。

「香港」のカツカレーはかなりなボリューム感があって濃厚な味。

あのカツカレーの白いご飯がケチャップライスに変わった、と思っただけで胸がいっぱいになってしまうため、また注文したことはない。

今度行ったときにチャレンジしてみようかと、少しだけ考えている。

(長崎風トルコライス)