将棋世界1996年12月号、大崎善生さんの編集部日記より。
9月28日(土)
深浦康市五段と岩田義子さんの結婚式が東京「品川プリンスホテル」で行われた。義子さんは板橋区の安田病院につとめる看護婦さん。昨年、深浦さんが肝炎で入院したのが馴れ初め。主賓挨拶の米長九段の言葉によると「いつも痛い注射をする時にそっと優しく手をそえてくれる人がいて、その方が新婦の義子さんでした。深浦五段がそのお礼に今度は僕がもっと優しい注射を(場内爆笑)とプロポーズされたらしい」ということになる。
先を越されて逆上!? 気味の森下八段の挨拶も楽しかった。「王位戦で弟弟子が羽生六冠王に挑戦が決まり、結婚式を控えていますので、何とかお手柔らかにとお願いしたのですが、手厳しくやられてしまいました。後で六冠王にそれを言うと『いや、結婚してこれから、もっと厳しいことが待ってますから』という返事でした(場内大爆笑)」
もちろん、当の羽生六冠王もニコニコしながらそれを聞いていました。
何とも心温まる楽しい結婚式でした。末長くお幸せに。
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この期の王位戦七番勝負は、深浦五段が羽生王位に1勝4敗で敗れている。
羽生六冠は三浦弘行五段(当時)に棋聖を奪われた直後でもあるし、どうしても負けられないところ。
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羽生善治二冠は、この年の3月に結婚をしている。
結婚して相当に月日が経って「結婚してこれから、もっと厳しいことが待ってますから」と言うと、妙に生活感が出てしまい洒落にはならなくなるが、結婚後半年以内だと、この言葉が光り輝く。
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職場結婚というケースは数多くあるが、サービス提供者と顧客との間の結婚は意外と少ない。
たとえば、
看護士と患者
医師と患者
キャビンアテンダントと乗客
バスガイドと乗客
作家と編集者
棋士とファン
営業マンと顧客の担当者
グラブホステスと顧客
これらは、ありそうでありながら非常に事例が少ない。
これらの例に比べ、比較的多くあるのは、
教師と教え子
映画監督と女優
など。
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そういう意味でも、深浦五段の結婚は快挙と言えると思う。