升田幸三-田中角栄対談/升田幸三-中曽根康弘対談

近代将棋1991年6月号(升田幸三実力制第四代名人追悼特集)、「升田対談・ピックアップ」1965年新年号 中曽根康弘氏 より。

中曽根 将棋の勝負をしておられて、大山名人という人はやっぱり、おそるべき敵ですか。

升田 大山名人は将棋を知っておる人だということがいえますね。まあ将棋は素人の人でも知っとるでしょうけれども、定跡とかなんとかでなしに、書には書心があるだろうし絵には絵心があるでようが、そういうものをもっとる大した人物ですね。見た目にはおもしろくもなんともないけれども、将棋は勝負でしょ。精神的や肉体的な状態から下駄を履くまでわからないというのが勝負ですよ。われわれのは将棋を知っておっても勝負を忘れたり、自分の手段に酔うて、いい手に酔うてしまうことがある。大山君は酔うことがない人ですよ。

中曽根 勝負師ですか。

升田 いわゆる、終わってから喜びを味わう、済んでから。普通は良くなったといっては喜び、悪くなっては悲しむ。それだけ、おそるべき、えらい人ですよ。

中曽根 はあ、なるほど。

升田 大山君でも途中で喜びそうになることはあるに違いない。それを引きしめ、引きしめしてるわけですよ。忍耐といいますかね。それが大変なんです。そして結局は勝ちにもってゆくから立派なもんです。頭だけとか指だけで指してるんじゃない。ツマ先から全身、全身で指してる将棋ですね。全部が戦力になっている。途中でお茶をのんだりすることまで、全部戦力になっている人ですよ。その点で木村名人の全盛期より、大山君の方が上だと私はみている。やっぱり木村さんの方は江戸っ子というか、途中でワクワクしてるところがある。うれしくなると短気になるところがある。勝負に強い人はだいたい忍者の性格があります。腕を切られても足を切られてもネをあげないところがあります。痛いとかなんとかいうんじゃダメなんです。

中曽根 なるほど、いいことを聞きましたね。終わってから喜ぶんですね。

升田 それは痛き辛き目にあわされた経験からそうなるんです。大試合をたくさんしてきてるということです。

中曽根 対局していて、大山さんの人間に押されるということはありますか。

升田 ありません。だけど若いものには大山君と年齢的に同じでも大勝負の場の少ない人にはあるでしょうね。これはもう負けとる。貫禄が違う。位負けしとってはこれは勝負ではない。相手が刀を持ってなくても切ることができない。

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王が師に対して教えを請う、史記の中に出てくるようなシーンが浮かんでくる。

実際に、升田幸三九段(当時)は、中曽根康弘元・首相が行政管理庁長官当時の「行政改革推進講演会」で講演を行なっている。

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近代将棋1991年6月号(升田幸三実力制第四代名人追悼特集)、「升田対談・ピックアップ」1966年新年号 田中角栄氏 より。

田中 私は香車っていうのは好きだな。

升田 香車っていうのは正直ですからね。真一文字で・・・。

田中 私は一白の馬で、馬は好きなんですが、桂馬は自分で使っちゃあ、だめですな。桂馬三丁あれば詰むというが、ぼくが持っても詰まんね。(笑)

升田 香車をうまく使う人をわれわれの仲間でみてますとね。念力というもんがありますね。イッコクです。桂馬を使うのはワザ師というんですかね。違うんですね。

田中 われわれは桂馬を持つと金や銀とかえるんですな。ところがうまい人のはそうじゃあないな、あいしゃにポンと使ったような桂馬がね、それがこっちの玉にきいてきたりね。そういううまさですね。

升田 名まで金銀とりにいくのは単純なんですがね。桂馬という駒は金銀五、六枚あっても詰まんところを一枚の桂馬で詰むという特殊性を持っていますからね。しかし桂馬で攻められるのもいやですが、ヤリがまともにきいてくるとたまりませんね。

田中 香車を三枚持てれば負けてもいい。(笑)

升田 われわれの仲間で高島という人はこれはヤリ使いでしたな。角とヤリを交換してヤリ二枚並べてくるような、飛車の頭に二枚ぐらい並べてくると、防ぎようがなくなる。

田中 香車はいいねえ。(笑)このごろようやく銀と香車をどっちを捨てようかというときに今までは香車をさきにしてましたが、このごろは銀を捨てて香車を残してますね。

升田 それがわかるようになったら。相当なものですよ。

田中 香車は早いですね。ただ前に出ちゃうと、引けないからね。

升田 銀を捨てても、香車が走ると、先手をとってますから、相手が受ける。又香車をどこかに使える、で合計すると二手ぐらいトクになっちゃう。将棋は先手必勝、攻撃必勝ですからね。だから玄人の場合、守りが守りじゃないんです。守りは先手をとって守る。素人は受けるための守りになっちゃう。

田中 このごろ私もね。全くの縁台将棋ですが、ベタ負けが少なくなったね。負けても一手違いのような・・・。

升田 勝つチャンスがあるわけですよ。一手違いの将棋が指せるということは将棋がわかってきたということですよ。

田中 まあ、銀は攻めに使って、金で守れとか、そういう初歩が納得しなけりゃ、だめですね。

升田 そうですね。金が前線に出ると金の威力がなくなる。銀は前線から引っ返すのが早いから出すんです。金は出ちゃったら、もどりにくいんですね。

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一方の故・田中角栄元首相は、本当に将棋が大好きだったことが分かる。

名前を隠して会話だけを見れば、ただの将棋好きなオジサンそのものだ。

こういうところが、田中角栄元・首相が国民的人気を得た源泉なのかもしれない。

田中角栄首相誕生時、日本将棋連盟は田中角栄首相に七段を贈呈している。

     

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