神吉宏充五段(当時)インタビュー

近代将棋1993年4月号、「棋士インタビュー 神吉宏充五段の巻 楽しくない人生なんて」より。

 毎週土曜日は「囲碁将棋ウィークリー」(NHK衛星放送)の生放送のため東京にやってくる生活だ。インタビューは前夜金曜日、東京駅で行った。

 八重洲口銀の鈴で待ち合わせをしたが凄い人出で会うのに少々手間取った。やがて大きな神吉さんが大きなトランクをぶらさげている姿を見つけた。地下街のお店に入る。

 テレビの仕事はもうどれくらいになりますか。

 「4年になります。今年の春で交替する予定です」

 失敗したことはありませんか。

 「失敗したと思いませんから(笑い)」

 例えば二日酔いとか、風邪で声が出ないとか・・・。

 「そんなこともたまにありますけど、気にしませんもの」

 凄い性格ですね(笑い)。

 「楽しくやらな、面白くないいう性格ですから」

 将棋年鑑に、怒るのが苦手とありましたけど、本当ですか。

 「ええ。たまに怒ろう思うてやりますけどホントに怒っていないのが自分で分かりますね。ポーズなんですよ」

 芸人的な要素というのはいつ頃からありました。

 「昔から人を笑わせたり楽しませるの好きでしたね。手品なんかやって人が驚いたり喜んだりを見て楽しんでいたり」

 関西のほうではかなり活躍しているんでしょう。

 「奥様情報・となりNOとなり いう番組出させてもらってますけど、これは将棋プロいうのは前面に出さないで、着物着ているのが唯一それらしい感じで・・・」

 どんなことするんですか。

 「食べ物のレポートやら温泉やらいろいろです。この間は中国の上海行って来ました。テレビ局の人、いい人ばっかりですよぉー」

 東京の局の人とは違うでしょ。

 「そうですね。東京はなんか、本音がようわからんところがあるでしょ。大阪は額すり付けてガンガンやりあうけど、一発で相手の腹がわかりますよね」

 ガンガンやって、喧嘩にならないんですか。

 「あの、大阪では必ずキツイこと言うたらオチがありますから(笑い)。そこでワアーと笑ってお仕舞いですわ。だいたいストレートにもの言うから、スタッフでも誰と誰が仲が良うて誰誰が悪いとすぐにわかります。そやから仕事がやりやすいですね」

 テレビの他は何をやってますか。

 「読売新聞の関西版に毎週木曜日コラム書かせてもらってます。新聞用語には辞書片手に気イ使いますね」

 そのほかには?

 「将棋のコンピュータソフトのシナリオ書いたりしてます」

 ずいぶんいろいろやってますね(笑い)。将棋の収入と比べてどのくらいですか。

 「よう分かりません。連盟からもらうのもどれが対局料かデパートの将棋祭りかよう分かりませんもの。明細書なんか見ませんから。・・・でもだいたい年に4、5百万くらいかなあ、連盟からは」

 連盟だけでそれくらいあればけっこうじゃないですか。将棋界に入るころはどうでした。

 「私、高校出てからサラリーマンを2年やりましてそれから入ったので大分遅いんですよ。あのころ給料が7、8万でした。奨励会で稽古やら記録やら一所懸命とっても3万5千円くらいでしたね」

 きっかけは?

 「兵庫県の代表になって全国大会でも3位になったんです。それで好きなことなんやからやってみようかなと」

 その時の優勝は誰でしたか。

 「小林純夫さんでした。この人に負けたんです」

 それで内藤九段に入門されたんですね。

 「そうです。他では歳いってて入れてくれなかったので(笑い)。でも内藤先生には物凄く感謝しています。今、こんな楽しい生き方できるのも先生のお陰と思っております。実のオヤジより思っておりますよ」

 内藤先生は歌のほうで大成功した棋士ですが、その時も歌やめて将棋一本に打ち込めば名人になれたかもという意見がありましたね。でも人間はすべて含めたリズムで生きていて、むしろ全部余計なもの止めたら調子が狂うと思うのですがいかがですか。

 「まったくそのとおりですわ。僕なんかもお陰で楽しく仕事させてもろうてますが、合間縫うて対局をする時は本当に将棋指すのが楽しい。こんな楽しい商売させてもろうていいんかいな、思う位」

 将棋が新鮮に感じるのがいいんでしょうね。

 「長くやってなかなかうまくいかないと将棋が雑になるという話も聞きますけど僕なんかそんなんもったいないと思いますね」

 サラリーマンから入ったからその想いはひとしおでしょう。

 「今はマスコミに頼っている形ですけどマスコミも従来は慣習でやっていたでしょう。隣がやるからうちもやる。でも、だから、こちらもどんどん頑張って、毎年契約更改でお金上げるのもたいへんでしょう。もっと広げていかんといけないと思いますね。地方の新聞は掲載をやめているところも出てきて、天王戦もなくなるというし大棋戦は大丈夫と思いますけどね。思い切って発想を変えていかないと。どうもなにか変えようという意見が出ても、自分の不利益になると自然に潰れるようなところがありますね。僕なんか意見いうても、神吉はもうけているから、食えるからそんなこと言えるんやということで、まともに聞いてくれません。色物(寄席の)扱いですわ(笑い)」

 では神吉さんならどうします。

 「簡単ではないと思いますが、僕なら政府から補助金もらいます。将棋を文化と認めて下さったんだから、それを残していくためにもぜひ頂いて。それでレッスン棋士を皆、郷里に帰します。それぞれ道場をやってもらい、それに補助金を当てます。そうするともっと地方に広がると思います」

 (中略)

 テレビの現場にいると時代の先端を感じるでしょう。

 「もう反応が早いですね。一番言われるのが、先崎・神吉の将棋パトロール見てますという声です。あれは対局が短いときのための穴埋め番組なんですけど、ウィークリーより言われますね」

 衛星放送との差ですかね。衛星放送の加盟は何世帯ですか。

 「500万世帯と聞いています。そう、テレビといえば今家庭に将棋の盤駒ない家が多いというけど、観るお客さんが増えているようですね。例えば昔は女性が競馬や相撲はあまり観ませんでしたでしょう。今はサッカーにしてもラグビーにしても自分がやらんと観るのは詳しい人が増えてますね。これを将棋界も先取りして面白いものやっていかないと、そっぽを向かれますよ。視覚的な面白さが求められているんです」

 そう。けっこう観るだけの人でも中原がどうの谷川がどうの、能書きいう人いますね(笑い)。ワンパターンの対局シーンばかりじゃなく、ね。

 「それを連盟で毎日5分でいいからコマーシャル流したらいい。タイトル戦のニュースやらアマ大会募集やらスター棋士の同行やら。番組買って。これはずいぶんイメージ違いますよ」

 競馬なんかもやっていますね。

 「囲碁は世界大会やらどんどんやっているのに、差を開けられますよ」

 観戦記も書いていますけどどんなところに気をつけていますか。

 「手の解説は極力入れないように。先手後手のマークもなるべく使わないようにしています。ズラズラと指し手ばかりあるのは僕らでもよう読みませんからね」

 書く仕事というのはお金がどうこうというより、讃めてもらったり大切にしてもらうと嬉しくなってやるようなとこがあるでしょ。

 「そうなんですよォ。編集部に顔を出すと編集長がやあやあ神吉さん、ちょっと待っててくれれば飲みに行きますけどいかが、なんて言われると嬉しくてね(笑い)。今そんな人少なくなったかな。ただ書いてファックスで送るというのは味気なくていかんわね(笑い)」

 ところで棋界のプリンスも本物のプリンスも結婚で、相撲のプリンスだけ雲行きが危ないようですが(笑い)、神吉さんはどうなんですか。まったく話がないようには見えないんですが(笑い)。

 「まあこの歳ですからいろいろありますけど」

 そのあたりを。

 「ええ、まだちょっとハッキリと人様に言えない状態で・・・」

 さっきと違ってずいぶん歯切れが悪いですね(笑い)。

 「決まったら絶対に教えますから、スクープをお約束しますから、この辺で勘弁を・・・(笑い)」

 本質的には女性が好きでしょ。

 「ええ。好きです(笑い)。いつも誰かいないと生きていけへん。たぶん女性がおらなかったらこんなに仕事しません。その楽しみでやっているようなもので。そのためやったらいくらお金使ってもいい。もしこの世に女性がいなかったら、自給自足で農業してるでしょう」

 やはり相手が楽しそうな顔しているのを見て自分も楽しいというような。

 「そうです。だから楽しい人がいいですね。穏やかで平和を愛する人」

 しかしそれだけ人を楽しませるにはどこか暗い部分もあるんじゃないかな。

 「一人でいる時間を割合大切にしています。落ち込むようなことがあった時なども一人でいるほうが好きですね」

 一人静かにいる時と賑やかに人を笑わせる時があってこそちょうどいい塩梅に生きていけるのだろう。この後も某作家に誘われているとかで、元気に銀座方向のタクシーに乗り込んで行った。

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「血液型がB型の人ってどんな性格?」

と聞かれたら、このインタビューの冒頭部分を見せれば良いと思う。

神吉宏充七段はもちろんB型だが、本などで説明されているB型の特徴が凝縮されている。

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神吉宏充七段は駒落ち上手で無類の強さを発揮する。

アマチュア出身なので、アマチュアが陥りやすい落とし穴を巧みにに突いてくるということと、下手の心理を動揺させる口撃作戦のコラボレーション。

谷川浩司九段に大駒落ちで勝ったアマ強豪に対し、二枚落ちで勝ったという話もある。

元・近代将棋編集長の中野隆義さんに、下手殺しとして怖れられた故・灘蓮照九段と神吉七段どちらの上手が下手に強いかと聞いたところ、数秒の考慮の後、神吉七段と答えたほどだ。

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先崎・神吉コンビの「将棋パトロール」は面白い番組だった。

今の二人がやれば、当時とは雰囲気は変わると思うが、正月番組の1コーナーでも良いので、復活させてほしいものだ。