将棋世界1986年2月号、「第44期A級順位戦」より。
N いやー驚いたね、驚いた。
M 何がどうしたんですか。
N いやね、12月16日に米長-勝浦戦が終わった時点でも何と、まだ全員が5勝5敗になる可能性があるんだよ。
H ええっ本当ですか。そうなったら一体どうなるんですか。
S うーん、全員でパラマス方式の挑戦者決定戦をやることになるんだろうなあ。そうなると、谷川は1勝で挑戦者になれるけど、大山、二上は9連勝しなければ挑戦者になれない。なんか変だけどね。
M 降級の方はどうなるんですかね。
N 指し分けは降級しないという規定があるから、全員残留だね。そうすると来年は下位5名が降級することになる。
S とにかく、それくらいの大混戦だってことだね。残留が決まっているのは桐山と大山だけ。この調子だと、6勝のプレーオフはかなり考えられる。逆に4勝の上位でも危ないよ。
—–
この号でのA級順位戦の戦績は次の通り。
1位 谷川浩司前名人 3勝3敗
2位 森安秀光八段 3勝4敗
3位 森雞二九段 3勝4敗
4位 米長邦雄十段 3勝4敗
5位 勝浦修九段 3勝5敗
6位 桐山清澄棋王 5勝3敗
7位 加藤一二三九段 5勝2敗
8位 青野照市八段 2勝4敗
9位 有吉道夫九段 4勝3敗
10位 二上達也九段 3勝4敗
張出 大山康晴十五世名人 5勝3敗
たしかに、全員が5勝5敗ということもありうる状況。
そして結果は、
1位 谷川浩司前名人 5勝5敗
2位 森安秀光八段 4勝6敗
3位 森雞二九段 5勝5敗
4位 米長邦雄十段 6勝4敗
5位 勝浦修九段 4勝6敗
6位 桐山清澄棋王 5勝5敗
7位 加藤一二三九段 6勝4敗
8位 青野照市八段 4勝6敗
9位 有吉道夫九段 5勝5敗
10位 二上達也九段 5勝5敗
張出 大山康晴十五世名人 6勝4敗
なんと、6勝4敗が3人、5勝5敗が5人、4勝6敗が3人。
この期の降級は3名だったため、4勝6敗の全員が降級。6勝4敗の米長邦雄十段、加藤一二三九段、大山康晴十五世名人の3人でプレーオフが行われることとなった。
—–
将棋世界1986年5月号、「第44期A級順位戦」より。
S 何も言うことはありません。
N 怪物とか、鉄人とか、不死鳥とか、言葉にするだけ無駄という感じ。
H 大山-加藤のプレーオフ第1戦が終わったのが深夜2時近く。なんでも大山はそのあと、徹夜でゴルフに行こうとしたとか。
S 結局、回りの人間が、なんとかお帰り願ったんだけど、それでも午前3時過ぎに帰って、午前6時にゴルフにでかけていったとか。
N それで2日後に行われたプレーオフ第2戦では米長に完勝。
S 何も言うことはありません。
N 大山って確か大正生まれだよね。一昨年ガンの手術をして、1年休場したんだよね。
S 何も言うことはありません。
N 大山が初めて名人戦に出たのが昭和23年。それから、もう40年近くたっているような気がするんだけど、ちがうかしら。
S 何も言うことはありません。
—–
大山康晴十五世名人は名人在位18期、名人戦への登場回数は25回。63歳での名人挑戦となった。
中原誠十六世名人が名人在位15期、名人戦への登場が18回。
また、現時点で、
谷川浩司九段が名人在位5期、名人戦への登場が11回。
森内俊之竜王が名人在位8期、名人戦への登場が12回。
羽生善治名人が名人在位8期、名人戦への登場が13回。
羽生名人、森内竜王の二人の在位期間・出場回数を足した数字が大山十五世名人の在位期間・出場回数にほぼ等しくなる。
時代が異なるとはいえ、大山十五世名人の記録がいかに偉大だったかがわかる。