将棋世界1995年5月号、公文教育研究会の公文毅社長(当時)の随筆「将棋と公文式」より。
将棋と公文式、一見何のつながりもないような両者が、最近、各方面で注目を浴びています。話題の中心は、もちろん今をときめく、羽生善治名人・竜王です。
羽生さんには、昨年の11月から当会のテレビCMに出ていただいておりますが、このCMのことは新聞や雑誌でもたびたび紹介されていたので、すでにご存知の方もたくさんいらっしゃることでしょう。
ところで、CMの中で羽生さんが「やっててよかった」と語ってくださっていますが、実は、羽生さんは、小学2年生のときから約8年間公文式で学習されていました。もっとも棋士として大成された後に、このような形で再び公文式と関わることになるとは、思ってもみなかったのではないでしょうか。
それにしても、このCMは、関係者にはもちろん、老若男女さまざまな方々の間で好評をいただいております。
当社の広告宣伝課にも、「羽生さんのポスターがほしい」とか「CMの新作はどんな内容ですか」といった問い合わせが、若い女性ばかりでなく、お母さま方からもたくさん寄せられています。また、街で羽生さんとすれ違った小学生が「あっ、公文式だ」と指さしたといったような話も聞こえてきます。おかげさまで、これまでそれほどご縁がなかった方たちも含めて、幅広い層の方々に公文式を知ってもらうことができました。
今回の出会いがもたらしたもう一つの効果としては、公文式を学習している幼児や小学生の間で、将棋ファンが増えているということです。教室での学習を終えた後で、先生に将棋のことや羽生さんのことを質問する生徒がたくさんいると聞いています。このCMは、将棋界にとってもひとつの貢献になったのではないかと思います。
(中略)
羽生さんとお話した時に、将棋と数学は似ているというようなことを言われたのがとても印象に残っています。たとえば、因数分解や方程式をくり返し学習しているうちに、だんだんとこの式はこの方法で解けるということがパッと浮かんでくるようになります。そうなると数学におもしろさを感じてくるのですが、羽生さんは、将棋にもそれと似たところがあって、たとえば詰将棋を何回も何回も解いていくと、局面を見ただけで詰めの一手がパッと浮かんできて、将棋がますます楽しくなると話されていました。
たしかに将棋をやる人には数学が得意な人が多く、逆に数学が得意な人には将棋が好きな人が多いので、その辺りのことも羽生さんに話したら、たぶん思考過程が似ているのでしょうとおっしゃっていました。
先程、将棋では局面に相応しい手を瞬時に選択すると書きましたが、数学でも同じようなことが言えると思います。一つの問題にはいく通りかのアプローチの方法があって、その一つずつを検討していったら、時間内に一つも解けなかったということになりかねません。その時、最良の解き方を思いつくのが「数学のセンス」であり、また「将棋のセンス」であるように思います。
ただし、そういう感覚は一時につくものではありません。将棋なら何回も詰将棋を解くことで身につくでしょうし、数学なら何回も問題を解いていくうちにその感覚が磨かれていくのだと思います。
(以下略)
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私の話になって恐縮だが、私は小学1年から中学1年までの計7年間、算数および数学が得意科目だった。
ところが、中学2年の時の数学の先生が、生徒をよく殴る先生で、個人的には殴られたり怒られたりはしなかったのだが、その先生の授業が嫌いで、テストの点数も徐々に落ちてきた。
中学3年の時の数学の先生も、生徒を殴りこそはしなかったが、決して生徒から好かれるタイプでは全くない嫌味な感じのする先生で、数学の成績は停滞する一方。
将棋に夢中になり過ぎていた時期なので、それで成績が落ちていたとも考えられるが、とにかく数学は冴えない成績が続いた。
中学3年のある時に、NHK教育で放送された将棋の特別番組で、数学者で愛棋家であった東京工業大学の矢野健太郎教授が、「数学が得意な人には将棋が強い人が多く、将棋が強い人には数学が得意な人が多い」と話しているのを聞いた。
それを聞いて勇気100倍。「将棋をやれば知らず知らずのうちに数学の成績が伸びる」と勝手に解釈して、もっともっと将棋にうちこむようになった。
勉強をあまりせずに将棋ばかりやっているので、当然、数学の成績は落ちるばかり。
高校は第一志望の学校を落ちて、落ちたことに懲りて、将棋はピタッと止めた。
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高校に入っても、数学は不振の一途。
ところが高校2年の夏休み、理由は2つぐらいあったのだけれども、そろそろ勉強を真面目にやらなければ、という気になってきた。
総花的にやってもうまくいきそうにないので、「失われた3年間」である数学を得意科目に戻すことを初めの目標として、高校1年の数学をゼロからやり直すことにした。
一番やさしい参考書を買ってきて、こんな簡単な練習問題まで解く必要はないだろうと思われるような問題も真面目に解いた。
そうこうしているうちに、知識が一つ一つ積み上がり、数学の勉強がどんどん楽しくなり、数学の成績も上がってきた。
半年で、数学に関しては学年で真ん中以下の成績だったのが、学年で10%以内の成績となった。
ここで、他の科目も同じようなやり方でバランス良く勉強をしていれば良かったのだろうが、高校3年になっても数学一筋。
将棋をやりすぎて勉強がおろそかになった中学時代の図式が、数学をやりすぎて他の科目の勉強がおろそかになるという図式に変わっただけだった。
結局、入試科目が数学200点、英語100点という配点の慈悲深い大学の数学系の学科へ入ることになったのだが、しばらくしてから公文式のことを知り、まさしく自分が高校2年の時にやった勉強のやり方が公文式のアプローチなのだと思った。
そういう意味でも、公文式は非常に効果的と言って間違いない。
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1990年代中盤に公文式のCMに出演していた羽生善治名人だが、最近の公文式のホームページにも登場している。
→OB・OGインタビュー VOL.001 棋士 羽生善治さん(KUMON now)