真部一男八段(当時)「これには郷田君もニガ笑いであろう」

将棋世界2000年3月号、真部一男八段(当時)の「将棋論考」より。

 1月17日(月)にテレビ朝日で放映された「月下の棋士」という番組を見た。

 もうずいぶん前からコミック誌に連載されている人気シリーズなので、若い人は知っている方が多いだろう。

 原作は能條純一氏で監修は我等が河口俊彦老師である。普段ドラマはあまり見ないのだが、テーマが将棋とあっては見すごせない。主役の氷室将介を演じるのはV6の森田剛氏と書いてあったので、何かの競技で6連覇した人かなと思っていたらそうではなく、若手人気グループの一人だそうだ。ストーリーはもちろんフィクションなのだが、登場人物が棋士の誰かとダブって見えるから将棋ファンには面白いと思う。氷室がライバル視してつけ狙う若き新名人滝川幸次(田辺誠一)は長身でメガネの奥の鋭い視線、名前からしてこのモデルが誰かは説明の要もない。

 蓬髪ヒゲ面の無頼棋士、寺田農演ずる刈田升三のモデルが分からなければ、モグリの将棋ファンと云われても怒れない。前名人で滝川に敗れ15期保持した名人位を手離した将棋連盟会長の大原巌、こちらは中尾彬が演じている。大原の場合はモデルを特定しづらい。名前を見ても大の字と原の字が混じっており、しかも大名人である。こじつければ会長であり、刈田の友人ということで、大の字が優先されようか。次に奨励会のリーダー格 幸田真澄三段、長身でハンサムとくれば大方想像がつくが、その人物像がモデルとはかなり違っていて、いつも赤いマフラーを両肩から垂らし、若い娘をひきつれてスポーツカーを乗り回す、いってみればキザな奴である。これには郷田君もニガ笑いであろう。今後も色々な人物が登場しそうだから、それぞれ誰かを想像してみるのも面白い。

(以下略)

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ドラマ「月下の棋士」の主な配役は次の通り。( )内はモデルと考えられる棋士。

氷室将介…森田剛
滝川幸次(谷川浩司九段)…田辺誠一
大原巌(名前は大山十五世名人と中原十六世名人)…中尾彬
御神三吉(阪田三吉)…高松英郎
刈田升三(升田幸三実力制第四代名人)…寺田農
村森聖(村山聖九段)…伊東努
幸田真澄(郷田真隆王将)…細川茂樹
村木武雄(木村義雄十四世名人)…仲谷昇

当時のそれぞれの棋士を演じた俳優の写真が載っているブログがあり、とても参考になる。

懐かしのマイナー?テレビドラマ! 2(イツモノスヌヲに明日は来るのか?)

寺田農さんの刈田升三は、かなり本物に似ている。

細川茂樹さんの幸田真澄の写真は載っていないが、相当に華やかだったのだろう。

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「月下の棋士」は月曜日の20時から放映されていた。

月曜20時というと、当時は、TBS系「水戸黄門」あるいは「大岡越前」などが、日本テレビ系では「世界まる見え!テレビ特捜部」の視聴率の高い番組があったため、他局にとっては魔の時間帯。

そのような関係で「月下の棋士」の視聴率がそれほど高くなかったとも考えられる。

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かなり昔の話になるが、あるテレビ局の月曜20時からの生番組で、仕事の関連で放送中はスタジオに詰めていたことがあった。

しかし、この番組は半年間の予定だったものの、視聴率が思わしくなく、3ヵ月間で番組が終了してしまった。

企画などには関わっていなかったが、思い入れのある仕事だっただけに、個人的にかなりガッカリした思い出がある。

それとともに、裏に「水戸黄門」があるから、というのが全く言い訳にならない世界であることもあらためて実感した。

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田丸昇九段も「月下の棋士」について書いている。

15年前にテレビドラマ『月下の棋士』で元女流棋士を演じた女優の川島なお美さんが54 歳で死去(田丸昇公式ブログ と金 横歩き)