将棋世界1998年3月号、塚田泰明八段(当時)の第47期王将戦〔羽生善治王将-佐藤康光八段〕第1局観戦記「構想力の勝利」より。
羽生はこの将棋が「指し初め」ではなく、1月5日に早くも新年第1局を指し、翌6日は「札幌東急将棋まつり」に出演。そして7日が対局移動日、という日程となった。
佐藤も同じく「札幌東急将棋まつり」に3日から6日まで出ていた。6日、帰京する飛行機の便が、「オーバーブッキング」、つまり定員以上のチケットを航空会社が出してしまい、予定の便に乗れないハプニングがあったそうだ。
幸い次の便に搭乗できて大丈夫だったとの事。
今回の対局場は宇都宮という事で、タイトル戦としては比較的都心から近い場所である。
従って乗る新幹線の時刻も若干遅い。15時04分東京駅発だ。
関係者はこの車中で集合、という事になるのだが、発車の時刻になっても羽生だけが来ない。
しかし新幹線も発車しない。まさか羽生を待っている訳でもあるまい。
数分後、羽生が到着し、列車も発車した。
聞けば、羽生は「15時12分発だと思っていた」そうだ。
そして発車が遅れたのは、他の新幹線が雪のために東京駅到着が遅くなったため。東京駅の北へ向かう新幹線のホームの数は、何故だかとても少ないのだ。
これってやはり、「羽生はツイている」って事になるのだろうか。
両者共に忙しいスケジュールを消化して、そして今期王将戦の七番勝負が始まる。
(以下略)
—–
対局は1月8日~9日に行われた。
お互いに物凄いスケジュールだが、両対局者とも6日以降は同じ日程なので、コンディションはほぼ同じ状態で対局を迎えることができたと言えるのだろう。
この第1局は羽生善治王将(当時)が勝っている。
—–
将棋界にはその勝負強さから「大山康晴十五世名人が乗る飛行機は絶対に落ちない」という伝説があったようだが、羽生善治名人のこのような新幹線のエピソードを知ると、「羽生名人が乗る飛行機も絶対に落ちない」とも思いたくなるというものだ。