将棋世界1984年6月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。
いま一番強いのは誰かと問われたら、私は、中田功二段だと答えたい。とにかくすごい終盤の馬力でなんでもかんでも勝ちまくっているという感じである。
今年に入ってから、◯◯◯●◯◯◯◯◯二段昇●◯◯◯◯◯◯という成績。これはどう見ても並ではない。本誌推奨の羽生初段がもうひとつパッとせず、ひと休みしている間に、中田がグングン伸びてかわりにスターダムにのし上がったようだ。
どうも、この欄で推奨株にあげられると伸び悩む、というジンクスができつつあるようだが、この中田は大丈夫、本物と見た。
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将棋世界1984年7月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。
推奨株、中田功二段は今月も勝ちまくった。他とは勢いが違い過ぎるようである。将棋が多少悪くてもなかなか決定打までは浴びずに終盤戦に持込み、ちょっと混戦模様になったところで悪力を発揮して、相手をねじ伏せるがごとくに逆転勝ちというのがこの中田のパターン。正統派とは言えないのかも知れないが、勝つのだからいいと思う。型にはまった将棋よりも、ファンから見ればこの方が面白い。
1図は斎藤三段との平手戦。両者とも1分将棋。斎藤三段の△2六歩は好手で、中田陣の最弱点を突いている。本来なら決め手となるべきところなのだが……。
中田の▲3五歩。これに対して△同桂▲3六銀△2七歩成▲同銀△2六歩と攻めればわかり易かったのに、斎藤は△2七歩成▲同玉△2六歩と誤まり、▲同玉△2五金▲1七玉△5五桂▲2三歩(A図)と進んでわけがわからなくなった。以下は△同玉▲3四銀△2四玉▲2五銀△同桂▲2七玉△2六歩▲3六玉(B図)で逆転気配がただよいはじめ、△4三金▲3二角△4四桂▲2六玉△3三金▲5一竜(C図)となって、中田がこの難しい終盤を競り勝ったのである。指し手が多くなって申しわけないが、ここのところは是非盤上に再現して迫力を味わっていただきたいと思う。
中田はこの次の北島二段戦にも逆転勝ちをおさめ、9勝1敗と昇段をほぼ確実にした。遊んでばかりいるのに、というウワサも聞くが、きっとどこかにかくれて修行しているのに違いない。そうでなければオバケだ。
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将棋世界1984年10月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。
「今、一番強い」と書いた中田(功)は、あと3勝3敗でいいところまできて2勝4敗と乱れ、昇段はご破算となってしまった。どうも、当欄で推奨した株は上がらない。困ったものである。すこし口をつぐんでいるべきだろうか。
中田と入れ替わりに浮上してきたのが高田。7連勝中で、通算では11勝3敗。二番連続の昇段のチャンスを迎えているわけである。「ベルサイユのばら」といわれ、少女漫画の主人公のような瞳を持つ美少年高田も、いつの間にか22歳になった。数ヶ月前に、今回と同じようなチャンスを逃しているだけに、ここはなんとしてもモノにしたいところであろう。
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ベルサイユのばら・高田尚平二段(当時)も、この後、成績が伸び悩んでしまう。
銀遊子さんの「関東奨励会だより」で推奨株にあげられると、その後不調になる、というわけではないのだが、昇段するような勢いが止まってしまうという現象。
これは、「関東奨励会だより」を読んだ他の奨励会員たちが、「負けてなるものか」と推奨株とされた奨励会員に対し闘志を燃やした結果とも考えられ、またそういう流れこそが奨励会らしい雰囲気と言えるのかもしれない。
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「遊んでばかりいるのに、というウワサも聞くが、きっとどこかにかくれて修行しているのに違いない。そうでなければオバケだ」という銀遊子さんの感想が絶妙だ。
しかし、中田功二段(当時)は、この頃は本当に遊んでばかりだったようなので、中田功二段はオバケだったという結論になる。
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「ベルサイユのばら」は少女漫画の代名詞ということで用いられたのだろうが、高田尚平三段(当時)とベルサイユのばらのオスカル(男装の麗人)を並べて見てみたい。
タイプと方向性は違うが、たしかに高田尚平三段は少女漫画に出てきても全く不思議ではないことがわかる。