将棋世界1983年11月号、滝誠一郎六段(当時)の奨励会熱戦譜「でっかい目標を持て」より。
以前にも奨励会員の私生活等にふれてきたが、今回は現役奨励会員にアンケートを取らせてもらった。(なるべく本音で語ってもらうよう努力した)
登場人物は、ABC……(事情を考え匿名にした)で紹介していきたい。
アンケートの内容は、月2回の例会日を除いた日の過ごし方等を聞いてみた。
◯睡眠時間は?また何時頃寝ますか?
- A二段 7時間 午前1時
- B二段 7時間 午前1時
- C二段 9時間 午前0時
- D初段 8時間 午前0時
- E1級 8時間 午前0時
- F2級 7時間 午前0時
- G3級 5時間 午前3時
- H4級 8時間 午前0時
◯起きてからどのように行動しますか?
- A二段 趣味の映画をたまに見に行くぐらいで、後は連盟で棋譜を並べたり、読書をしたりして過ごす。
- B二段 音楽を聴いたり連盟に遊びに来たりして過ごす。
- C二段 日中はパチンコをしに行き、夜は棋譜を並べて過ごす。
- D初段 読書をしたり、将棋の研究をして過ごす。
- E1級 連盟に遊びに来て。その後仲間がいれば喫茶店に行き雑談。たまには、ディスコに行きはけ口を求める。
- F2級 家でごろごろ寝そべって過ごす。
- G3級 高校生活を辞めたばかりで、連盟に必ず来てぶらぶらしている。
- H4級 朝ボケッとして喫茶店に行き、昼から連盟に勉強しに来る。(たまに成人向けの映画を見に行く)
◯仲間が集った時の話の内容は?(酒の席も含めて)
- A二段 仲間の批評。(誰が強く又、弱いのか)奨励会幹事の手合のつけ方に問題があるのではないか。
- B二段 仲間の批評。特に女の子の話(自称奨励会のプレイボーイ)
- C二段 仲間の悪口。野球の話。女性問題。
- D初段 先輩の悪口。同期の悪口。後輩の悪口。女性の話。
- E1級 女性の話。
- F2級 女の子の話。
- G3級 同期の悪口。女性の話。
- H4級 女性の話。
ちなみに女の子の話と女性の話では、内容が全然違うらしいのです。
◯趣味とそれに月いくらお金を使いますか?
- A二段 映画。読書。2万円。
- B二段 読書。テニス。ナンパ。4万円。
- C二段 野球。(野球指しと言われている)ボウリング。4万円。
- D初段 スキー。酒。2万円。
- E1級 つり。読書。2万円。
- F2級 山登り(若者らしい)1万5千円。
- G3級 ありません。3万円(食事代)
- H4級 読書。2万円。
◯収入はどのくらいありますか?それはどのようにして得たお金ですか?
- A二段 5万円。記録と連盟の手伝い。
- B二段 13万円。稽古と記録と連盟の手伝い。
- C二段 3万円。記録とパチンコ。
- D初段 2万円。稽古と記録。
- E1級 3万~4万円。ホスト(嘘だと確信している、筆者注)
- F2級 3万~4万円。記録と師匠の手伝い。
- G3級 5万~7万円。記録と連盟の手伝いと稽古。
- H4級 2万円。記録と棋士の手伝い。
◯生活費はどのくらい?そして家賃は?
- A二段 6~8万円。1万8千円。
- B二段 10万円。5万4千円。
- C二段 家から通っている。
- D初段 家から通っている。
- E1級 8万円。2万円。
- F2級 家から通っている。
- G3級 家から通っている。
- H4級 7万円。2万円。
(生活費には、仕送りも含まれている)
◯将来の目標と1日の勉強時間
- A二段 タイトルを取りたい。6時間。
- B二段 八段。2時間。
- C二段 タイトルを取る。4~5時間。
- D初段 名人。3~4時間。
- E1級 名人。1時間。
- F2級 四段。2時間。
- G3級 四段。2時間。
- H4級 六段。2時間。
右のごとく簡単にふれてみたが、目標の答えが幹事として大いに不満であった。将来を背負う若者が四段とか六段をめざしているとは情けない。我々が先輩からよく言われた例だと自分のめざした地位から二段ひくのがだいたい本人のおさまるところである。
この例によると四段では、退会しなければならなくなってしまう。考えを改めてもらいたいものだ。
もうすぐ、奨励会の試験が始まる。受験生はこれらの意見及び生活環境を参考にし自分の現在の生活と比較してみるのもおもしろいのではないかと思う。
(以下略)
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滝誠一郎六段(当時)の、「自分のめざした地位から二段ひくのがだいたい本人のおさまるところである」が非常に印象的な言葉だ。
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仲間が集った時の話の内容が、有段者になるほど仲間の批評(悪口)が多くなっていることがわかる。
異性に関する話題はほぼ全員に共通している。10代、20代の前半なら必然かつ自然な流れと言える。
「女の子の話」は特定の女性に関することで、「女性の話」は不特定の女性に関することなのだろう。
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やはり、月に2回の例会だけで、後の日は自己管理・自己研鑚というところが本当に大変なことだと思う。
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私が大学4年の時、授業は金曜日の卒業研究だけで、あとは週2回の家庭教師だけ、という生活パターンだった。
学科が数学系だったので実験もなく、また、成績は良くなかったが卒業研究を除く卒業に必要な単位も3年までに取り終えていたので、このような展開となった。
その頃は、ラジオで音楽を聴きながら本ばかり読んでいた。
運転免許を取ることもせず、将棋もやらず、たまに友人たちと飲みに行くぐらい。
あれはあれで非常に貴重な1年だったと思う。
しかし、同じように時間があっても、奨励会員が置かれている厳しい環境とは全く違う、社会に出るまでのモラトリアム期間の温室の中の話。
奨励会は厳しい。