「ようし、きょうは呑むぞ!こうなったら外へ出よう。中原さんも付き合ってくれるでしょうね」

将棋世界1981年1月号、能智映さんの「棋士の楽しみ―(酒)」より。

 私の接する将棋指したちの酒は、すごく陽気だ。こんなこともあった。

 4、5年も前の談だ。17期の王位戦で挑戦者となった勝浦修八段が、地元の北海道・札幌での対局で中原誠王位に敗れて、1対2とリードを奪われたあとのことだった。

 勝浦八段はいつも、格好よく、じっくりと呑むタイプなのだが、敗戦も手伝ってか、対局後の宴席でもう相当呑んでいた。ほおが紅味を増してくるのに合わせて、だんだんとボルテージが上がってくる。

「ようし、きょうは呑むぞ!こうなったら外へ出よう。中原さんも付き合ってくれるでしょうね」

 いやおうもない。関係者も含めて10人ほどの一連隊が繁華街のススキノに繰り出す。夏の夜風はさわやか、すごい雑踏だ。そこで勝浦八段はなにをやったか。

「さあさあ、やるぞ!」と気合いを入れて、大きく息を吸い込んでから、豪快に「ナカハラメイジン、バンザーイ」と双手を上げたものだ。―暗を切る大声といいたいが、その大声は雑踏の中にボワーッと消えていったものである。

 この気持ち、誰がわかろうが。自分の不甲斐なさに対する憤懣やるかたない気を表現しているともとれるし、押しても引いても動かぬ”強い中原”に最大級の敬意を表したものとも受けとれる。

”王者・中原”とて酔わぬことはない。ニコニコ笑って勝浦の「バンザイ」を見ていたが、「では、こっちもやらなくてはね」と、記録係だった沼春雄四段や私たちをうながして、わりとボリュームを下げて「カツウラハチダン、バンザーイ」とやったもんだ。それは意外な光景だったが、ビートの強いロックが響く中だけに、あっさりとせつなに消えたものだった。が、中原名人はさすがに和唱しなかったようにも思う。

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勝浦修九段が一人で新宿のバーで飲んでいるのを見たことがあるが、本当に格好良かった。

ススキノのど真ん中で「ナカハラメイジン、バンザーイ」も、ある意味でとても格好いいと思う。

勝浦修九段が王位戦で挑戦者になったのは1976年のこと。

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「ビートの強いロックが響く中」と書かれているが、1976年の夏頃に街頭で流れている可能性があるロックといえば、ベイ・シティ・ローラーズ の「サタデイ・ナイト」である可能性が最も高いと思われる。

この曲をBGMにして、「ナカハラメイジン、バンザーイ」と「カツウラクダン、バンザーイ」とやってみるのも一興かもしれない。

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勝浦修九段と酒

勝浦修九段が酔った時の口癖

愛すべき勝浦修九段(1)

愛すべき勝浦修九段(2)