将棋世界2003年11月号、甲斐栄次さんの「棋士たちの真情 屋敷本音を語る―屋敷伸之八段」より。
屋敷は最近、都内に新築マンションを購入した。広々としたリビングルーム。そばには大輪の花のような新妻が微笑んでいる。男なら一度は思い描く幸せを、屋敷は31歳で手にした。
久しぶりに会った屋敷には、貫禄と風格が感じられる。
―住み心地はどうですか。
屋敷「いいですね」
カメラ撮影が終わったのでインタビューの前に着替えをすることになった。2、3分後に現れた屋敷は奥さんのものと分かるTシャツ姿。もしこれが久保九段なら”ああ、ペアルックだ”と思うし、佐藤棋聖なら”新ブランドだな”と納得するが、屋敷の場合は明らかに間違えている。しかし、これが屋敷のたまらない魅力だ。奥さんは心得ているとばかり笑って対応した。
―結婚発表に、本当に屋敷なのかとの問い合わせもあったようですけど、奥さんに一番ひかれたところは?
屋敷「ハハハ…、ええ、まあ、感覚的に合っちゃったんです。そういうことってありますよね。共通の趣味ですか?特にないです」
(以下略)
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この時の屋敷伸之八段(当時)は、正式な撮影ではスーツ姿、記事中のスナップ写真ではバーバリーのポロシャツを着ている。
奥様のTシャツを間違って着てしまったのは、スーツとポロシャツの間のこと。
しかし、ひと目見て女性用とわかるTシャツだったということは、屋敷八段はカットソーを着ていた可能性もある。
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「もしこれが久保九段なら”ああ、ペアルックだ”と思うし、佐藤棋聖なら”新ブランドだな”と納得するが」
現在なら、「もしこれが阿久津主税八段なら”ああ、ペアルックだ”と思うし、佐藤天彦名人なら”新ブランドだな”と納得するが」となるだろう。
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近代将棋1991年11月号、高橋道雄九段の「格言上達法」より。
将棋はやはり終盤が面白い。
どちらの勝ちか?手に汗握る攻防。
何と言っても、これが将棋の最大の魅力だ。
TV対局を観戦していて、ギリギリの終盤戦では、思わずTVにクギ付けになるのに対し、途中で差が開いてしまってつばぜり合いがなく、すんなりと終わると、えも言われぬ空しさを感じるのも、また当然であろう。
「光速の寄せ」なる言葉がある。
これは谷川竜王の終盤の強さを表したものであり、いかにもカッコいい。
但し、谷川竜王だからこそピッタリくるようで、例えば私が、ごくたまに素早い寄せが決まり、内心「今日は光速の寄せだ」などとほくそえんでても、後日の記事には、「高橋が堅実に寄せた」と出る。
人それぞれにイメージがあり、全く同じ手を指したとしても、その印象は異なる。
それはそれでいいのかもしれない。
(以下略)
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同じ局面で同じ手を指したとしても、指した棋士によってイメージが変わる。
やはり、その棋士らしい手が出ると、多くのファンが喜ぶ。
逆に見ると、決め手や妙手が指された場合、その棋士らしい手と思いたい心理も働くのだと思う。
ジャイアント馬場さんが十六文キックを放てば、会場に見に来ている大勢の観客は涙を流さんばかりに喜んだ。
らしさ、はとても大事だ。