将棋マガジン1987年7月号、コラム「棋士達の話」より。
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ゴルフは今棋士達の間でも結構盛んに行われる。大山十五世名人が10年程前最初にやった時は「こんなに気分の良いものを続けていては将棋にマイナスだ」といってすぐにやめたという。もっとも今は健康のために早足ゴルフを時々やるそうだ。
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田丸七段が初めてゴルフコースに出て、第1打を打ったが、これが何とフェアーウエイに真横、体の正面に飛んだ。そこにいた米長九段はすかさずよけ「読み筋通りだった」しかしこのため田丸七段はゴルフ部より「永久追放」を受けたという。
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中原名人はルームランナーのコマーシャルに出演したこともあるが、普段より健康に留意している。最近やっている事は真向法だそうだ。体操の一種だそうで両足を開き前屈している写真が紹介されていた。柔軟な体が柔軟な発想を呼ぶ。
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故・山田九段はテニス好きで、奨励会員を誘い、よくやった。ところが山田九段はしっかり身を固めてグランドに出るのだが奨励会員はデタラメで、ジーパンに丸首シャツで裸足などという格好でも平気だった。周囲の反応「あれはどんな団体?」
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山田教室テニスグループ(そんなのがあったかなあ)の生き残りはゴルフ界追放の田丸七段ぐらいか。今は都下のテニスグループの会員で走り回っている。「いつも室内にいるので、大空の下は気持ちよい」ごもっとも。でも腕前の話題はでない。
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高橋道雄王位もテニスは大好き。全仏オープンテニスを見に行った、というから相当なもの。最近はアマ有段の域まで腕を伸ばしたという。もっともこれをチャンスにテニスギャルとの交際を目指している、との周囲のうわさもあるが真偽不明。
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高橋王位は奨励会時代から体を鍛えるのが好きで、連盟に来る時は鉛入りの靴をはき、エレベータにも乗らず早足で階段を上下した。対局には足腰が重要というわけだろう。そして結果は、現在の地位とやや太めの足。
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故・塚田名誉十段は競馬が大の趣味だった。といっても大金をかけるわけではなく走る馬を見るのが好きだったという。ある日ファンと競馬の話ばかり。相手がたまりかねて話の内容を変えたところ、塚田先生一言「君は話題がせまいね」
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中村王将も競馬が大好き。昨年3月23日、あの大雪の日に中山競馬場に出かけたが途中で中止。しかも交通機関も止まり方法がない、と散々。しかしこの不断の努力もあってか、競馬の予想とか仕事の話も多くなったという。趣味と実益。
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中原名人は馬主。一応本人に確認したところ「馬主といっても一頭ではなく、せいぜい足一本ぐらいだよ」つまり共同馬主ということでした。もうかるのかと思ったところ経費が高く金銭的には損。「でも見る張り合いはある」趣味は大変。
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米長九段、家族とアメリカの旅行に出かけ、競馬場へ。ところが予想紙を読んでも英語の省略形で意味不明。しかし馬の顔を見ると、これは日本と変わらず一安心。穴馬券を的中させた。「アメリカのカジノで大損する誰かとは違う」と大喜び。
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「君は話題がせまいね」。
これは非常に哲学的な問題で、
- 一つの話題に長くついてこれないから、話題がせまい
- 一つの話題ばかりしているので、話題がせまい
という二つの意味合いがある。
塚田正夫名誉十段は1の立場で、一般的には2の立場。
しかし、この二つは、相反するようでいながら相反していないので、話は難しくなる。
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例えば第二次大戦中のドイツ軍の戦車の話題だったとする。
Ⅰ号戦車、Ⅱ号線車、Ⅲ号戦車、Ⅳ号戦車、タイガー、パンサー、タイガーⅡなど、これに駆逐戦車も含めれば相当な種類になるわけだが、この話題から、
- T34など、ソ連軍の戦車の話題に発展する
- アメリカ軍のシャーマン戦車の話題に発展する
- ドイツ軍のパンサーD型とA型とG型とF型の違いなどの話題に発展する
- 模型メーカーのタミヤを絶賛する話題に発展する
- ドイツ軍の戦闘機、爆撃機の話に発展する
- 戦車の装甲が厚くても、被弾時に戦車内部のネジが弾丸のように空中に飛び出して来て非常に危険だったので、ネジの取り付け方が抜本的に変えられた、などの話題に発展する
- 当時の国際情勢と国際連盟の役割について話題が発展する
など、さまざまな方向への展開が考えられるのだが、途中で別の話題に変えられたとしても文句が言えないほど元がマニアックな話題なので、「話題がせまい」という話にはならないだろう。
しかし、競馬の場合はドイツ軍の戦車とは違ってもっと一般的な話題なので、この辺の解釈の線引きが非常に微妙なところだ。