将棋世界2005年2月号、河口俊彦七段の「新・対局日誌」より。
真部対小林戦も、夜の9時ごろ勝負所となっていた。
それが10図で、真部陣の端が詰まっている所に注目。
局後、真部君に「端歩を突かれたら、絶対に取らねばならぬ、と君は書いていたじゃないの」と言ったら、「理論と実際とは違う」と言ってはぐらかされた。要するに、優勢を意識してわずらわしさを避けたのだろう。
しかし、端の損は大きく、▲5三銀と打ち込んで、小林九段は自信があった。
10図以下の指し手
△6六角▲同金△5七と▲6七金打(11図)真部八段が控え室に来て、座布団を重ねてあるのを椅子がわりにして腰をおろし、雑談をしながら体を休めている有様が何回かあった。優勢な将棋だから落とすまいの気持ちが見えた。
そうして貯えておいた体力をここで使う。一手一手に時間を使い慎重に寄せた。
まず△6六角と切り、△5七と、と寄った。これが一手すきなのは、しっかり読み切ってある。控え室も読んでいて、もう真部勝ちの結論が出ていた。
対して、小林九段は一手すきなのをうっかりしていたらしい。△5七と、のとき気がついたがもう遅い。それでも▲6七金打は根性の一手であった。
11図以下の指し手
△6八と▲同金引△8九銀(12図)しかし、△6八と、から△8九銀の手筋を見つけられては、小林九段の頑張りも報われそうにない。
11図で▲8九同玉は△7七桂以下一手一手の寄せ。仕方なく▲6七玉と逃げたが、△4七飛▲5七角と角を使わされては楽しみがなくなった。その後は、△4九角▲5八金上△4六桂と、手堅く寄せて真部八段快勝となった。
なお、△5七とに▲5二銀成は、△6八と▲同金△7九飛▲6七玉△5五桂で詰む。
控え室に戻って、隅の方で藤倉四段と盤を囲んでいた佐藤(和)四段に▲6七金打と打ったと伝えると、「金を打ったんですか」。そんな指し方があるんですかね、と口には出さねど顔が言っていた。
粘りの金打ちは、30年前なら当然の一手。今はもう見かけない。将棋感覚も変わっているのを感じさせる。
(以下略)
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「端歩を突かれたら、絶対に取らねばならぬ」
これはよく聞く言葉だが、取りたくない場合も多い。
歩切れであったり何も楽しみがない状態なら嫌でも取らなければならないだろうが、ガンガン攻めている最中の時は、取ると相手からの攻めの相手をしなくてはならなくなるので、取りたくない気分だ。
どちらにしても、端歩は難しい。
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「理論と実際とは違う」は、ケースバイケースで理論を適用しないほうが良い場合もある、という意味になるのだろう。
いい言葉だ。
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11図の▲6七金打が、昭和の典型的な粘りの一手という。
とはいえ、ここまでくると相手の間違いがなければ逆転はない。
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「△5七とに▲5二銀成は、△6八と▲同金△7九飛▲6七玉△5五桂で詰む」
△5五桂以下は、たとえば▲同金△5七金▲同玉△4八角以下の詰み。