近代将棋1983年11月号、能智映さんの「呑んで書く 書いて呑む」より。
またことしの王位戦4局目の話にもどる。こんどは”脇役”の中原さんの話ではなく、”主役”の内藤さんのおもしろおかしい座談だ。この人は、勝ったときより、負けたときのほうがむしろにぎやかだ。この夜も中原さん、芹沢さん、板谷進八段、田中寅彦七段、高橋道雄五段らといっしょにじゃんじゃか呑んで、よくしゃべった。ひょいっと「おゆき」の話が出た。
「おかしいんや、この前、三橋美智也さんのコンサートに行ったんや。楽屋にあいさつに行ったら、入り口に親衛隊のおばさんたちがたむろしとる。なるほど、それもそのはず、入ってみたら、三橋さんはパンツ一丁で涼んどった。ご婦人(?)が中に入れんわけや。しばらく話して出ようとしたら、おばさんの一人がけったいなことをいうんや。『内藤さん、あなた将棋にうつつをぬかしとらんで、しっかり歌もうとうて』!?」
強い内藤さんでは、演歌ファンは困るのである。
(以下略)
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内藤國雄九段が二冠王の頃、歌手としての活動を減らしていた頃の話。
たしかに、歌手・内藤國雄が好きな歌謡曲・演歌ファンは、そう思うのも無理はないところだろう。
将棋ファンなら、その逆、あるいは内藤九段がやりたいようにやってくれるのが一番、と思うところ。
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昔の将棋界は、師匠が弟子の奨励会員に「学校の勉強をするヒマがあるのなら、その時間を将棋の勉強に充てろ」という、教育熱心な人が聞いたら失神しそうな世界だったわけで、立ち位置によって価値観が大きく変わるのは、やむを得ないことなのだろう。