将棋マガジン1986年5月号、中井広恵女流名人(当時)の第8期女流王将戦三番勝負・前哨戦「本音でいこう!」より。
女流棋士といえば、林葉直子ちゃん。直子ちゃんといえば”なんちゃってアイドル”今や将棋界だけでなく、一般の人達でも知らない人はいないくらい名前がとおっている。目下現役の女流棋士は18人。そのうち10代が6人ですから、まだまだ普及が必要です。
直子ちゃんとは大の仲良し。週刊誌などにも書かれましたが、すごく指しにくい。でもこれは”たてまえ”の部分だけ。本音をいうと今のところ一番負けたくない相手でもあります。今回はおもいきって本音の部分をお話ししてみようかナーなんて思います。
最近はあまり感じなくなってきたんですけど、直子ちゃんが初めてタイトルを取った時、一番ライバル意識が強かったですね。取られた蛸島さんより辛かった。というのはちょっとオーバーですが、私にも一応挑戦者の目があっただけに悔しかったです。
女流名人位も取り、日増しに強くなる直子ちゃんにくらべ日増しに弱くなっていくような気がしたひろべぇ。”絶対に負けない”という自信だけは今よりも強かったんですけどねェ…。実力が伴わなくて…。
高校に行くのを断念したのも、一つは直子ちゃんから絶対にタイトルを取るゾ!!という気持ちがあったから。仲のいい分、かえって他の人よりも負けたくないんですよね。
私にも一応、年ごろといわれる時がきて、悩みも増えてきますが、なにしろ女の子の友達が少ないので、相談する相手がいません。でも、直子ちゃんや久美ちゃんには相談する気になれないんですよね。何故って、勝負師ですから他人に弱みをみせたくないわけです。
私もこの世界に入るまで信じられませんでしたね。自分では割り切ってつきあおう!と思ってるんですけど、やっぱり私情にもでてきてしまう。不思議なもんですね…。ただ心に決めているのは、うそでごまかしたりはしたくない。イヤなことはイヤとはっきり言えるような友達関係でいたいということです。
そういう部分では本音でつきあっていきたいな。自分でいうのも変だけど、わりとハッキリした性格なんですよね。だから、おせじとかおだてとか大キライ。思ったことを素直に言えたらいいな。
ただ、時には”自分をかくす”ということも必要なんですよね。
局面は終盤、今、私がポカを指してしまった。けどまだ相手は考えている。こんな時、素直に顔に出してしまうと相手に見つかってしまいます、ポーカーフェイスですりぬけなければなりません。
そう考えると、将棋ってただ優劣をあらそうだけじゃなくって、とても複雑になってきますね。
(以下略)
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「私にも一応、年ごろといわれる時がきて、悩みも増えてきますが、なにしろ女の子の友達が少ないので、相談する相手がいません。でも、直子ちゃんや久美ちゃんには相談する気になれないんですよね。何故って、勝負師ですから他人に弱みをみせたくないわけです」
同じ会社の社員同士なら、このようなこともないだろうが、勝負師同士となると世界が変わる。
普通の職場とは違うからこそ、将棋の世界は面白い。
林葉直子さんが女流棋士をやめてからは、中井広恵女流六段と林葉さんの友情は、もう一つステージが進展しているのではないかと思う。
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先崎学九段も、棋士同士の友情について書いている。