若手棋士の兄貴分

将棋マガジン1988年5月号、「順位戦C級1組」より。

「昇級ですか、これが10年前なら違いますが今じゃ全然、意味ありませんよ」と、これは滝。意味ありませんよ、というのは滝の口ぐせだから、この言葉を額面通りに受け取ることはないが、上がったことに対する多少のテレを感じさせる雰囲気があった。

 将棋づけの20代の頃に較べ、今は、将棋と必死に対面している時間が短くなっている。それでも、あの時は上がれず、今は上がれた。不思議なものだ。

 近年、滝は、佐藤康光、先崎学らの若手連中を引き連れて、よく山に行っている。

 山登りのほかにも、麻雀、競艇、酒……等々、滝の日常はなかなか忙しい。20代の時とは違った形で将棋と接している。富岡のように、堂々と前を狙うというような年ではもうないが、滝の、将棋と自分とのバランスは見事だと筆者は思う。

「2年で戻って来ますから」なんてバカなことはない。後輩らから長兄と慕われる好漢・滝の悠々たる走りを、これからも見せて欲しい。

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滝誠一郎八段は羽生世代前後の棋士が奨励会員だった頃の関東の奨励会幹事だった。

飄々としていて、押し出しが強く、面倒見がよく、後輩に慕われていた。

弟弟子の森信雄七段のブログに滝八段の引退慰労会の様子が書かれているが、写真を見ればその雰囲気がよくわかる。

兄弟子の引退慰労会 7,14(森信雄の日々あれこれ日記)

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「意味ありませんよ」というのは滝六段(当時)の口ぐせだが、「意味ない」という言葉で思い出されるのが郷田真隆九段。

今もそうかどうかはわからないが、少なくとも20数年前、郷田九段が酔った時の口ぐせが「意味ない」だった。

この「意味ない」は、滝八段の影響を受けている可能性が高いと考えられる。

郷田六段(当時)が元祖の滝七段(当時)に「意味ない意味ない」と言った事例もある。

1997年、郷田真隆六段

郷田真隆六段(当時)の「長考意味にゃ~い!」