将棋マガジン1991年1月号、河口俊彦六段(当時)の「対局日誌」より。
今、勝ちまくっているのが郷田だ。先崎も「ほとんど負けてないんじゃないかな」と呆れている。
「そうかな、はじめは目立たなかったけど」
「順位戦を見ているからでしょう。2連敗したけど、あれは油断負け。みんな順位戦になると指し方が変わっちゃうものね。いつもと同じ調子で指しているとひどい目にあう」
12図は、その郷田と飯野の対戦の場面。飯野は平均して勝つが、目立つ勝ち星がない、といったタイプで、力はあるから好取組だ。
△5八歩とタラした局面だが、こういうとき、先手方ははなはだ気分がわるい。△5九歩成~△5八とが来る前に、と考えていると焦りをおぼえる。敵陣は金銀4枚がスクラムを組んで堅い。こんなとき、その人の棋才があらわれるのである。
12図からの指し手
▲5四歩△5九歩成▲8二飛△5八と▲3八飛△6八角成▲5五銀△3三銀▲5三歩成△同金▲4五金△6七馬▲5四歩△5二金▲4四金△同銀左▲同銀(13図)独特のポーズで▲5四歩と突き出した。
郷田の姿勢、手のちょっとしたしぐさには、歌舞伎の女形のような華がある。それに見とれているとバッサリやられるのであって、若いころに宮坂もそうだったが、いちばんキツイ手を指してくるのだ。
▲5四歩を△同銀なら、▲5一飛が先手になり、△4三銀▲8一飛成の次、▲3六桂がある。
で、飯野は△5九歩成以下、一本道の攻め合いを選んだが、▲5五銀と出て、中央の厚みが働いた。先手好調なのはいうまでもないが、キラリ光るのは▲5三歩成で、形をくずし、粘りの利かない形にした。
13図となっては、先手の一手勝ちが明らかで、穴熊の長所があらわれている。
参考までに、もうすこし手順を書いておく。先手が一転して俗手で攻める点に注目されたい。
13図からの指し手
△3一金打▲5三歩成△4四銀▲5二と△4九と▲4二金△3九と▲同飛△4七角成▲3一金△同金▲4二と△2二金▲3二金(14図)▲4二金、▲3二金と打ったのが「攻めは俗手で」の例である。重い攻めは切れない。
(以下略)
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将棋マガジン1991年1月号、「今月の記録」より。
郷田真隆四段が、今年度第2位となる13連勝をマークした。
この快進撃で、勝率部門の首位にも立った郷田だが、連勝前を含む全成績は下表のとおり。
4敗はすべてC級1組または2組の棋士に喫したもので、なんと!B級2組以上の棋士に対しては、全勝(7勝)となっている。
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この年の4月から四段になった郷田真隆四段(当時)の1990年11月9日までの戦績が24勝4敗(.857)。
非常に格好いい登場のしかただ。
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令和最初の日のブログ記事、やはりここは、理屈抜きで郷田真隆九段の登場。