将棋マガジン1991年5月号、「公式棋戦の動き 棋聖戦」より。
このところの棋聖戦は、若手の活躍が目立っている。具体的に名を出せば屋敷伸之。納得していただけたと思う。
郷田四段も、期待される一人である。
前期、挑戦者決定戦まで駒を進めた実績、近況の成績の良さなど、成長著しいからだ。
1回戦の対淡路戦では、その力底知れぬものを感じ取れる手順を見た。
今、▲8四角成(1図)としたところ。
1図で、普通は敵陣に飛車を打ち下ろしておいて、それから、というものだが、郷田の指し手は△5三金寄。4一飛を捌こうとする、遠大なる構想だ。
これに淡路は▲6三歩と、と金攻めに出るが、△4五飛▲6二歩成△4二金▲6三と△4三金寄▲5三歩△5六成桂▲5二歩成に△4九飛成(2図)と飛車の成り込みを成功させて、郷田が勝っている。
△5三金寄。非凡である。
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慌てず、騒がず、堂々と王道を行く4筋の飛車。
モーセの歩みとともに海が割れる、そのようなシーンを見たような思いにさせられる。
郷田真隆四段(当時)20歳、の絶妙な構想。
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別の格調高い名手→郷田真隆九段の格調の高い名手