将棋世界1987年4月号、池崎和記さんの「自分主義からの出発 桐山棋聖のすべて」より。
人間・桐山についてなら、わたしが昔から思い描いているイメージがある。
外柔内剛。
含羞の人。わたしのなかにある桐山像は、煎じ詰めれば、この二点に凝縮される。これに
マロンケーキの好きな人。
という一項が加われば、人間・桐山のほぼ半分は理解したことになると、わたしは勝手にそう思うことにしている。
棋士として、人間として。そのありのままの姿を引き出そうというのが、今回のテーマだ。以下は、桐山棋聖がわたしのインタビューに答えてくれたものに、別個に取材したものを加味して構成した。
(中略)
桐山棋聖の私生活は、これまであまり公表されていない。今回の取材のために、古い将棋雑誌を片っ端からめくってみたが、ほんの少し断片的に載っているだけで、ほとんど収穫がなかった。別に本人が隠していたわけではなく、その部分にスポットライトを当てる人がいなかっただけなのだろう。
(中略)
ここに桐山棋聖の最新パーソナルデータを一挙に公開する。棋聖は記者の珍問・愚問にも嫌な顔ひとつせず、その素顔をあっさり明かしてくれた。本邦初公開のものも多いはずだ。
競馬
桐山棋聖は棋界でも有数の競馬ファンだ。20歳のころに競馬を覚え、20代は毎週のように競馬場へ通っていた。現在は多忙のためあまり行くなくなったが、馬券はいまも電話投票で毎週買っている。数年前、スポーツ紙で競馬予想を担当していたことがある。
「10数年前、タマホープという馬がいました。名馬ではなかったのですが、この馬に魅せられたのが競馬ファンになったきっかけです。馬券を連勝で取ったから余計に愛着を感じたのかもしれませんが。いまは特別好きな馬はありません。好きな馬はみんな引退しちゃった」(笑)
大穴は、7千数百円が過去最高。いつか万馬券を取りたいという夢を持っているが「ぼくは穴狙いしゃなく、どちらかというと本命党なので、確率は薄いですね」
映画
これも大のつくファン。むしろ競馬異常といっていいだろう。棋聖は洋画の大作といわれるものは、ほとんど見ている。古いものではベンハー、十戒、エルシド、ナバロンの要塞など。とくに面白かったのは、大脱走、ジャッカルの日、十二人の怒れる男。
「最近では、地獄の七人、ハスラー2が印象に残っています。トップガンも見ましたが、これは全然ダメ(笑)。最近のものは、見てもしょうもないものがありますね」
以上でおわかりのように、棋聖は勇壮な男たちが主人公の映画(洋画オンリー)をとくの好む。ラブロマンス物はあまり見ないようだ。
テレビ
映画が好きだから、当然「洋画劇場」。ほかにNHKの「クローズアップ」、YTVの「知られざる世界」など。
「以前、十月のミサイルという映画をテレビでみたんですが、これが抜群に面白かった。見ませんでしたか?」
棋聖に用事のある人は、事前に新聞のテレビ欄を読んでおいた方がよさそうだ。
マージャン
棋士の例にもれず、これも好きだ。マージャン仲間は、小林健八段、伊達七段、小阪五段など。メンバーが4人いても、3人マージャンしかない。
関西には「桐山リーチ」というマージャン用語があって、いわゆる筋待ちリーチ(ひっかけ、などという下品な言葉は使いません)のことを、こういう。
読書
ひところ、司馬遼太郎の歴史小説ばかり読んでいた。いまはノンフィクション物をいろいろと。最近、読んだのは「鷲の翼に乗って」
古い将棋雑誌を読んでいたら「好きな女性のタイプは司馬遼太郎の小説に出てくる山内一豊の妻女」という一文に出くわした(昭和49年の近代将棋12月号)。一子(かずこ)夫人は、きっとこんなタイプの奥様なのでしょうね。
桐山ファミリー
昭和53年、八段のときに一子夫人と結婚。長男(7歳)と長女(4歳)がいる。
今回の取材中、某所で「桐山先生は結婚されてから棋風が変わったんじゃないか」という話を聞いた。本当だろうか。
「そういうことは、まったくありませんよ」(笑)と棋聖。
同じく「桐山先生は結婚されてから性格が明るくなったみたい」という説はどうか。
「そんなこと、本人に聞いてもわかりませんよ」(笑)と棋聖。
スポーツ
現在やっているのはゴルフだけ。関西棋士のゴルフ同好会「枝豆会」のメンバー。連盟ハンデは25~26。
「以前は野球とボウリングをよくやってました。ぼくは連盟野球部(関西には若手中心のシルバーズというチームがある)のOBなんですよ(笑)。ボウリングはブームのころ、森安君(秀光八段)や滝君(誠一郎六段)と一緒にずいぶんやりました。アベレージは170くらい。いまはほとんど機会がありません。子供がまだ小さいですから」
アルコール
現在は、まったくダメ。20代半ばに薄い水割りを5杯飲んだのが自己最高。
「酒をやめたというのではなく、もともと弱いので飲めなくなったんです」
カラオケ
酒が飲めないから、行かない。前出の「水割り5杯時代」には、東京ナイトクラブ、柳ケ瀬ブルースなどを歌っていたらしい(当時の歌唱力については森安八段や滝六段に聞かないとわからない)。
ファミコン
1、2年前、長男のT君がファミコンをやっていたときに、棋聖も熱中。
「いまは子供の熱がさめて、ファミコンはやってないので、ぼくもやってません。マリオは8-4まで全部いけますよ。すごい?だれでも練習すれば、これくらい簡単にいけますよ」
桐山棋聖の一日(対局のない日)
朝8~9時に起床。朝食がすむと、原稿を書いたり、詰将棋や次の一手を創作したり。忙しくないときは、映画を見に行く。就寝は夜11時ごろ。
「食事は1日3回、ちゃんと食べています。独身時代は徹夜したりして、とても不規則な生活を送っていましたが、いまはごく普通の生活ですよ」
好きな食べ物
好き嫌いはあまりない。魚と肉では、どちらかといえば肉(とくにステーキ)が好き。
対局のおやつの時間には、必ずマロンケーキを注文する。
「典型的な甘党ですね。なぜマロンケーキですかって?もちろん、おいしいからですよ。栗は、わりと好きなんです」
好きな飲み物
ホットコーヒーとミネラルウォーター。とくに対局中のミネラルウォーターは必需品だ。必ず5本飲む。
「ミネラルウォーターを飲み始めたのは7、8年前から。森さん(雞二九段)の影響です。1日5本というのは、一局が終わるのにちょうどいい分量なんです。生水(水道の水)はあまり飲みません。お茶は好きですが。
(以下略)
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桐山清澄九段らしさ溢れる、ほのぼのとしたインタビュー。
桐山九段の日常まで踏み込んだ記事は少なく、非常に貴重なインタビューだ。
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マロンケーキとモンブランの違いが気になったので調べてみると、非常に乱暴に言えば、モンブランはマロンペーストが山の形をしたマロンケーキ、つまりモンブランがマロンケーキの部分集合になるということが確認できた。
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「ベンハー、十戒、エルシド、ナバロンの要塞など。とくに面白かったのは、大脱走、ジャッカルの日、十二人の怒れる男」
1950年代から1970年代初頭にかけてのハリウッド大作映画が多い。桐山九段が10代から20代前半にかけて観た映画が中心。
石原裕次郎、小林旭、勝新太、三船敏郎、中村錦之介、高倉健、鶴田浩二などが主演する同時期の邦画ではなく、洋画が主体というところが桐山流だと言える。
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「スーパーマリオブラザーズ」は1985年に任天堂から発売されたファミコンソフト。
ワールド1からワールド8まであって、それぞれのワールドに4つのステージがある。8-4は最終ステージで32ステージ目。
スーパーマリオブラザーズは、電源を切らなければAボタンを押しながらスタートを押すと、ゲームオーバー前にいたワールドの1から再開することができるが、電源を切ってしまうと(セーブ機能がなく)1-1から始めなければならなかった。
そういうわけなので、普通ならファミコンの電源を1週間以上切らずに付けっぱなしにしておかないと8-4までのクリアは難しい。
桐山棋聖(当時)の「マリオは8-4まで全部いけますよ。すごい?だれでも練習すれば、これくらい簡単にいけますよ」は、ゲームオーバーに一度もならずに、通しで1-1から8-4までを一気にクリアできたということだろう。
こんなお父さんは滅多にいないはずだ。