現役最年長棋士である有吉道夫九段(74歳)が、昨日の順位戦C級2組9回戦で松本佳介六段に敗れて2勝7敗(3度目の降級点)となり、フリークラスの年齢規定により3月31日付での引退が決まった。
A級21期、タイトル戦登場9回、1000勝達成、1973年に中原誠名人から棋聖位を獲得するなどの名棋士だった。
55年間の現役生活にひと区切りをつけることになった有吉九段だが、読売新聞のネット記事に掲載されている有吉九段の笑顔がとてもいい。
→読売新聞の記事
有吉道夫九段は、大山康晴十五世名人門下。
井口昭夫さんは1985年のA級順位戦、大山康晴十五世名人-有吉道夫九段戦の観戦記で次のように書いている。(井口昭夫将棋観戦記選集 上より)
『数多い将棋界の師弟の中でも二人の関係は緊密だ。同じ岡山県の出身で、有吉は大山家の内弟子になった。大山が脚光を浴び、将棋で家をあけることが多くなると、有吉は稼業の精米業を手伝った。大山夫人は有吉がトップ棋士になった現在でも、家では”みっちゃん”と呼んでいる。
(中略)
有吉五十歳。大山と一回り違うイノシシ年である。将棋界のイノシシ年の系譜は有名で、故土居市太郎名誉名人、故大野源一九段、大山、有吉、中原誠名人がそれぞれ一回り違う。
有吉がひとたび獲物を得て跳びかかる姿はまさにイノシシであるという定評もある。
攻めの棋風を持つ人は、自玉を固くする。攻めが強いだけに、相手の攻めに対しても人一倍の警戒心を持つということだろう。有吉はその典型である。中には二上九段のように、同じ攻めが得意でも、自玉を囲うことより速攻を狙うタイプの棋士もいる』
自玉を固め猛烈に攻めるのが闘志溢れる有吉流。
金子金五郎九段は次のように書いている。
近代将棋1970年9月号「金子教室」より。
『有吉さんは理詰めで序盤をしぼる山田(道美)的な棋風とは正反対にある。相撲でいえば、山田は仕切りの立ち上がりの一瞬を大切にする。次に前さばき(有利な組み手にするまでのテクニックで序盤の前期)もうまい。そして「押し」で行く。どこまでも理詰めである。有吉さんの戦いぶりは、「投げ技」を使ってやろうという気持ちがはじめから終わりまであるように思える。前さばきのという段階(序盤の後期にあたる)でも、この投げ技を前提にしている。(と思う)』
有吉九段はひとつの大きなスタイルを持っていたと思う。
今後も盤上以外での活躍を続けてほしい棋士だ。