光速の寄せと、迫真の描写

先週の土曜日の朝日杯将棋オープン戦、羽生善治四冠-谷川浩司九段戦は羽生四冠の勝ちとなったが、1996年の竜王戦第2局、羽生善治竜王(先)-谷川浩司九段戦から、谷川浩司九段の鬼神のような寄せと、故・池崎和記さんの観戦記から迫真の描写を。

「谷川浩司九段の絶妙手△7七桂」として有名な一局。

(太字が池崎和記さんの文章)

photo_3 (2)

いくつも駒がぶつかっている難解な局面で指された△7七桂の鬼手。

「羽生の顔色が一変していた、大きく開いた目。半開きの口。深い眉間のシワ。夜道で得体の知れないものに出くわしたときのような、恐怖と驚愕の顔がそこにあった」

「ウーン、ウーンと、羽生のうめき声が聞こえてきた。両手で前髪をかき上げたかと思うと、扇子を激しくあおぐ。動揺しているのがわかる」

迫力と臨場感がすごい。

池崎和記さんの近代将棋1997年1月号「福島村日記」で引用されていたこの二つの文しか手元にないが、池崎さんの本局の観戦記を全部通して読んでみたい気持ちになる。

*****

谷川浩司九段の鬼神のような寄せは、ここからはじまる。

上の図面、△7六歩のスピードが加速するので▲同桂とは取れない。

ここから▲5九飛△6三飛▲5四角△6八角。

2 (5)

△6八角も絶賛された手だ。

飛車の取り合いは後手玉が堅いので先手不利になる。

以下、▲5八飛△8九桂成▲同玉△7六歩

3 (3)

ここで▲6三角成は△7七歩成。そして

(1)▲6八金なら△8八銀▲9八玉△6八と

(2)▲6八飛なら△同と▲同金△7六桂

で受けなし。

本譜は

▲6八飛△同飛成▲同金△7七銀

4 (3)

この時点で先手は受けなしになっているという。

▲6三飛△8八飛▲7九玉△6八飛成▲同飛成△同銀成▲同玉△3八飛

5 (1)

▲6七玉△7七金▲6六玉△6八飛成▲7五玉△6三桂までで谷川九段の勝ち。

6 (1)

あまりにも鋭い。

△7七桂の恐ろしいまでの効果が出ている。