昨日の内藤國雄九段に続いて神戸組。今日は、谷川浩司九段らしさが非常によく出ている一局を。
1997年名人戦第6局、羽生善治名人(先)-谷川浩司竜王戦。
谷川浩司九段が十七世名人の資格を獲得した一局になる。
この対局は、プロが驚く強手が4回出現する。
将棋世界および近代将棋の1997年8月号より。
1回目
この図面は、雑誌などで何度か取り上げられているかもしれない。谷川竜王が△8六銀と、銀を只捨てしてきた局面。
ここから▲同銀△8八歩。
ここで△8八歩を▲同金とすると、△6六歩▲同銀△6五歩▲7七銀右△8六飛▲同銀△8八角成【変化1図】となって、攻撃が成立する。
これではまずいので、△8八歩以降、▲7七桂△8六飛▲8七歩△8四飛▲8八金△6六歩▲同銀と進む。
決して谷川竜王が有利になったわけではないが、言い分は通した形。
2回目
その後の羽生名人の指し回しが手厚く、谷川竜王の辛抱が続く。
▲4五角と飛車金両取りに打たれた絶体絶命の局面、ここで勝負手△3九角が指される。
以下、▲3八飛△7五角成▲同歩△6四飛▲6五歩。
3回目
角を切って両取りを防いだものの、▲6五歩で再度の危機。
△同桂は、▲同桂△同飛▲3四桂で後手が持ちこたえられない。
そこで指された妙手が△5四金。
以下、▲6四歩△4五金▲同銀△2七角▲2八飛△4五角成。
こうなってみると、谷川竜王が形勢を一気に挽回した形になっている。
4回目
▲5五金と馬に当ててきた局面。ここで出た凄い手が△6七銀。
▲同玉と取ると、△6六銀と打たれ
(1)▲7六玉は、
△6七銀打▲8六玉△5五馬▲同歩△7七銀不成で詰み。【変化2図】
(2)▲5八玉は
△5七銀打▲4九玉△5五銀▲同歩△2七馬で詰み。【変化3図】
2つのケースとも、絵に描いたような寄せになってしまう。
本譜は第6図以下、▲8九玉△2三馬と進み、124手で谷川竜王が勝った。
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この一局については、将棋世界では、谷川浩司竜王・名人による自戦解説10ページ、近代将棋は特別取材班による4ページの解説が掲載された。
谷川浩司竜王・名人による自戦解説は非常に奥深く、場面場面での心境や読みが克明に記されている。その反面、自戦解説なので、アマチュアが驚き喜ぶような絶妙手であっても、自分で指した手なので控えめな言葉で表現されている。
一方の近代将棋は、「誰もが驚いた△8六銀。絶体絶命と見えた局面を打開した△3九角。飛車取りに打たれた歩を無視した△5四金の切り返し。敵玉の一瞬のスキをとらえた△6七銀。これが谷川将棋だ、という強打を随所に見せて谷川は名人位を奪還した」と、読者に驚きの場所を案内してくれている。
棋力が高くない場合には近代将棋の記事のほうが有り難いし、棋力が高い人にとっては将棋世界の記事のほうが有り難い。
それぞれの誌面の特徴が出ているわけで、両方読めば3倍楽しめる、という良い事例だったのかもしれない。