林葉直子さんらしい一手を。
近代将棋1996年3月号、故・小室明さんの「棋界フィールドワーク 女流棋士、この一手」より。
1993年レディースオープン準決勝、中井広恵女流名人-林葉直子倉敷藤花戦。
(太字は小室さんの文章)
次に△7四桂をみせられた中井は▲6五香と桂を外した。それでも林葉は△7四桂と打ち、
▲5六飛に
△6六桂とジャンプ!!
瞬間、中井は「アレッ」という顔つきになった。王手金取りなのだ。これは▲6六同歩と取るよりないが、林葉は「サンキュー」とばかりに金を奪い、△9六飛と走る。
(中略)
盤上に極上のトリックを盛り込んで敵を幻惑し、悩まし気なため息を何度かついて、きれいに詰ます。そしてキツネにつままれたような短い感想戦をもって対局を終える。
これが林葉の将棋に対する流儀であり後にも先にもないユニークな存在であった。
結果論的に言えば、最初の図の局面で、▲9二歩と飛車先を押さえたり、▲8四成香と引いておけば、この攻めには遇わなかったことになるが、
▲9二歩は△7一飛とされ、すぐにでも▲7二成香と入りたいにもかかわらず、その妨げとなり、▲8四成香は、飛車先を更に重くする筋の悪い手なので、通常であれば読みに含まれない手なのだと思う。
まさしく盤上のトリックであり、見せる将棋だ。