仲の良い二人

藤井猛九段と行方尚史八段は仲が良い。

昼食「注文なし」、の時の昼食風景。

将棋世界1999年2月号、行方尚史五段の自戦記「藤井システム撃沈」より。(棋聖戦 藤井猛竜王-行方尚史五段戦)

「一応おめでとう」第4局の打ち上げの席で新竜王にビールをつがせながら、おざなりな祝福の言葉を僕は言い、グラスをガチャンと合わせた。素直に祝ってやれ、彼も進んで行くが僕も進んで行くのだからと思っていた。進んで行く、その一点への信頼で藤井猛との友人関係は成り立っていると僕は思っている。

(中略)

今日は朝から一言も口を利いていない。

竜王と僕が同じ対局日の時は、よく連れだって昼を食べに出掛けるのだが、当然今日はそういうわけにはいかない。昼食休憩に入って、ひとつ気がかりな事があった。竜王と僕には、いきつけのお店があるのだが、そこは少し会館から離れているので他の連盟関係者はまずやって来ない。直前の対局の際も藤井、行方、読売のS記者の3人で出掛けたのだが、毒舌で鳴るS記者が「いやあ、うまかった」と絶賛した料理屋である。もしかすると、そこでハチ合わせになるかもしれない。その気まずさは容易に想像できた。しかし、僕はとりあえず原宿方面に向って歩き出した。

店のドア越しに気配をうかがう。ハチ合わせはまぬがれたようだ。ホッとしてドアを開ける。盲点になっていたところに藤井さんの背中が見えて、僕の足が止まった。主人が「いらっしゃい」と言い終わる前に、僕は踵を返して違う店へ向った。彼の背中に気迫を感じとったが、彼は僕に気付かなかったようだ。少し僕は神経質になっていたのかもしれないけど、仕方ない。チャラチャラしてられっかって、気分だったからな。

(中略)

3日後の昼食休憩、共に対局だった藤井猛と僕はいつもの店で飯を食いながら、先日の将棋について話し合っていた。

感想戦の結論が次々に覆る。まったく感想戦なんていい加減なもんだ。悪手続出の終盤にお互いあきれる。「サンプルとはとても言えないような将棋だったね」

そう言って僕はため息をついた。

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今年4月の名人戦前夜祭でも、二人が仲良く会話をしているのを見かけた。

行方八段は対局時に出前をとることはまずないが、昼食「注文なし」の気持ちがわかるような感じがする。