髪の寝癖を直すのに要する時間(羽生名人編)

羽生名人の結婚前のトレードマークだった髪の寝癖。直すのに要する時間はどれくらいだったのかに迫る。

週刊碁1996年、湯川恵子さんの「いい加減な話」より。

 バレンタインデーというとチョコレートよりマフィアの大虐殺を連想してしまうんですが、今年は奇跡的な明るい事件もあった。

将棋のハブさんが、ついに全七冠制覇を達成、ニュース速報も流れてマスコミ各社、大騒動でしたね。

あの羽生善治七冠王。

会うとごく柔らかい印象の青年だ。チェスや中国象棋の会で私は、ふと隣の盤を見たら指しているのは羽生さんだったりして、ふんわりとそこに居る感じ。話してみると、スッキリした簡明な言葉がいかにも頭よさそーお。

初タイトル竜王をとった頃だったか、ある夜、新宿二丁目の酒場にて、碁を打った。

彼はルールを覚えて間もない。私は何年も前から打っていた。まぁ、これで丁度いい勝負と周囲の人がいうので、互先で打った。

こちらはじきに必敗形になり、あれこれ暴れてみる。彼は関知せずスイスイと他所を打つ。

「もしかしてそれ、店じまいというやつですかあ?」

「そうそう、それですアハハハッ」

そんな晩があったのを私はすっかり忘れていたのだが、数年後ある席でひょいと羽生さんとあの碁の話題になり、私は急いで想い出して言った。「羽生さんて将棋と違って碁はめっぽう手堅いのねぇ」と。

「それは違いますよ。あの時は酔ってたから。え?いやいやケーコさんが酔っ払ってましたから。だからあんな碁になったんですよ」

ひぇ〜よく覚えているわね。

実に些細な事柄を、引き受けた以上は完璧にまっとうするその人柄に私は恐縮したことも何度かある。頭脳だけじゃできない事よ。

先日はNHK杯戦の観戦をした。七冠達成から五日後。まだ風邪が治らず青白い顔をしていた。髪の寝グセは相変わらずだったから嬉しい。私が羽生さんの”頭”と似ている点は寝グセだけだもの。

「二十分か三十分かければ直るんでしょうけど……ええ、今は対局と取材ばかり。指しているか写真を撮られているかどちらかなんです……」

頬もこけて。かわいそう。ゆっくり酔っ払って碁を打つ時間を分けてあげたい。

—–

私は若い頃から朝風呂派だ。

朝風呂ならば髭を剃るのも顔を洗うのも洗髪するのも一度にできてしまうからなのが大きな理由。

これならば寝癖は解消できる。

しかし、対局がある日の朝に風呂に入るのは、将棋に何らかの悪影響を及ぼす恐れが全くないとは言い切れない。たしかに難しいところだ。

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