名人戦のハプニング

近代将棋2006年8月号、スカ太郎さんの「関東オモシロ日記」より。

 さてわたくちめ、名人戦第5局の観戦記に行って参りました。対局場は群馬県伊香保温泉「福一」。ここまで森内名人の3勝1敗で、挑戦者の谷川九段はカド番である。

 序盤から互いに飛車を振るのか、あるいは居飛車にするのかという心理戦ともいえる含みの多い序盤になり、1日目の午前中から早くも「勝負」の気配が濃厚に漂う展開となった。

 紆余曲折の末、戦形は矢倉に決定。そんな中、そのハプニングは1日目の昼食休憩直前に起こった。

 昼食休憩の12時半まであと15分というところだったろうか。森内名人が手洗いに立ったのだ。その数分後に、手洗いの方から異様な音がしはじめたのだった。

 ガチャガチャガチャ、ガチャガチャ、カチャカチャ、ガタタタタ、ガチャガチャ・・・・・・、パチパチ、ガタ、ガタガタ・・・・・・。

 その異音は1分ほど続いただろうか。その様子から察するにどうやら森内名人が手洗いの扉が開けられなくなり、閉じ込められてしまったようなのである。途中の「パチパチ」という音に注目していただきたい(音に注目というのもヘンテコな表現ですが大目に見てやってくだしゃ~い)。この音はオイラの推理では、手洗いの照明スイッチを消したり着けたりした音なのだ。冷静に考えれば、そのスイッチが扉の開閉に関係があるとはとても思えないのだが、そこにすらすがるように手が行ってしまったところに森内名人の焦りが伝わってくる気がした。

 さてオイラは、このハプニングにハタと困ってしまったのだ。

 助けに行ってあげたいのはやまやまなのだが、拙者、ただいま中立を貫き通さなければならない観戦記者という立場なのである。ここで救出に行くという行動は、困っている人を助けるという人道的見地からは正しい。しかし、勝負を争っている場で片方への肩入れはわれわれ観戦記者にとってはご法度なのである。というわけでオイラは助けに行きたいものの助けに行くことができないというお尻の穴がモゾモゾとしてしまいそうな状況に置かれてしまったのであった。

 幸いにも森内名人は2分とはかからずに扉を開けることに成功。手洗いの中から無事に帰還して事なきを得たのだが、これが例えば持ち時間の少ないときなどであれば、そうとう複雑な問題になっていたかもしれないにゃ~、とオイラは想ったのでした。もし、そんな事態になったら、いったいどうなってしまうんでしょうかね。

 1日目の夕食の時に話を聞いたところ、やはり森内名人は手洗いの中に閉じ込められていたようで、「スカさ~んと呼んで助けてもらおうかとも思いました」ということであった。

(以下略)

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近代将棋2006年9月号、スカ太郎さんの「関東オモシロ日記」より。

 先月号で、森内名人が手洗いに閉じ込められてしまって悪戦苦闘をしていた話を書いたのだが、森内名人は自分のことを書かれるとオイラに必ず次のようなクレームをつけてくるのである。

「スカさ~ん、僕のことは書かないでください。僕のおばあちゃんが将棋の雑誌類を全部読んでいて、僕のことが書いてあるスカさんの記事を読むと『俊之はまたこんなバカなことをしているのかい・・・・・・』と言って悲しむんです」

 このクレームをオイラはすでに100回以上聞いているわけなのだが、なぜか森内名人はオイラのいるそばに限って失敗系の行動を取ってしまう率が高いのも不思議な因果関係だ。先月号では、森内名人のおばあちゃんを号泣させてしまったのではないかと想像し、ちょっぴり心を痛めているオイラなのである。

 そういわれてみれば、森内名人の立場からしてみると「どうして僕の失敗話ばかり書いて、スカさんの失敗話は書かないんですか。不公平じゃないですか。卑怯じゃないですか。なんでなんでどうして?」という気持ちになるような気がしないでもない。

 実は森内名人手洗い閉じ込められ事件のあった日に、わたくちめもひとつの事件を起こしていたのだが、先月号では触れなかった。それは40歳に到達し、2児のパパとなっている男が起こした事件としては、あまりにも情けなくまた恥ずかしい事件だったからなのだが、このままでは「他人に厳しく自分に甘い」と言われてもしょうがないので、恥をしのんで事件の顛末を正直に告白いたします。

(以下略)

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森内名人がトイレから出てこれなくなった2006年名人戦第5局(森内-谷川戦)は、谷川九段が勝っている。

照明スイッチがあったり音が聞こえてきたりということは、対局室にあるトイレでのことだったのだろう。

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森内名人のお祖母さんは、故・京須行男八段の奥様ということになる。

森内名人は、スカ太郎さんに麻雀ネタなどで何度か近代将棋の記事で取り上げられている。

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なお、同じ日のスカ太郎さんに起きた事件については、近日中に紹介したい。

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