中井広恵女流王位(当時)の人妻的ボヤキ

将棋世界1991年7月号、中井広恵女流王位(当時)の第2期女流王位戦〔植村真理女流二段-中井広恵女流王位〕第3局自戦記「嬉しい、初防衛」より。

 この原稿が本に載る頃には、少しは巨人の成績も上がっているのだろうか。巨人ファンの私としてはいたたまれない今日この頃である。

 この女流王位戦第3局の帰り、偶然飛行機が巨人の選手達と一緒になった。

 ”写真を撮らせて下さい”

 ギャル達にそう言われて、ニヤけた顔で写真を撮っていた。

 ”巨人・大鵬・玉子焼”なんて言われてたらしいが、現在ではすっかり西武の陰に隠れてしまっている。

 ”まったく、ニヤけて写真撮ったって勝たなきゃ人気も上がらないのよ”

 巨人の選手達に言ってやりたくなったが一方で、”なんでカメラ持ってこなかったの!!”とミーハーな想いもあった。

(中略)

 私は今でこそ、こんな騒がしい性格になってしまったが、昔はわりと静かだった。いや、静かというのはちょっと違うかもしれない。

 無愛想、無気力、無関心、無感動・・・とにかく、何をするにも面倒でいつもブスっとしていた。

 そんな性格も体形とともに丸くなってきたようで、多少の愛想笑いも出来るようになった。おせじは今でも好きではないが・・・。

 真理ちゃんもどちらかというとハッキリものを言うほうで、性格が似てるせいか気が合う。

(中略)

 シリーズを通して、前夜祭などでお酒を飲んだが、真理ちゃんはあまり強くないらしい。乾杯のビールを少し飲む位だ。

 世間では私はかなりお酒が強い事になってるようだが、それは皆さんの大きな思い違いである。

 以前、棋士数名と女流棋士でワインバーへ飲みに行った時の事だ。私はワインはお酒の中でも相当弱い方で、3杯ほど飲んだだけでフラフラしてくる。

 ”私、酔っちゃったみたい・・・・・・”

 その言い方に色気がなかったのか、はたまた人妻じゃ意味ないと思ったのかは分からないが、誰も聞いてくれない。

 女性が酔ったと言ってるのに、全く冷たい人達である。

 スキーに行った時もそうだ。普通、心配しながら女性の後を滑ってくるものではないだろうか? 誰とは言わないが、さっさと私を置いてきぼりにして滑っていく。人妻はホント、意味がない。

(中略)

 将棋指しは、どうして勝った時に喜びを表に出さないのだろうか。相手に対して気を使っているのだろうが、負けた人の方が笑いを浮かべてたりして、時々どちらが勝ったのか分からない事がある。

 スポーツの選手なんかは勝った瞬間、ガッツポーズをしたり、涙を流したりする。見てる人達にとってはそれがスポーツマンらしくて清々しい気分になる。

 私も林葉直子女史のように女流王位戦で10連覇なんてしたら、もうガッツポーズをカメラマンがイヤと言う程、決めてみたい。相手の事など二の次で・・・。

 そして、涙はやはり男性棋士に公式戦で勝った時の為にとっておきたい。女に負けてくやしい思いをしている相手も、私の涙を見たら、”俺は良い事をしたんだ”と勘違いするかもしれない。

 女流棋戦は競馬のオークスのようなものだから、それ以外でも、早く1勝を挙げて涙を流してみたいものだ。

(中略)

 対局が終わったあと、大盤解説で来ていた林葉直子ちゃん、記録係の山田久美ちゃん、真理ちゃん、私の4人で夜の街に遊びに出かけた。地元の直子ちゃんがいるんだから、ガイド役は大丈夫と思ったら、

 ”私、福岡で遊ぶとこ全然知らないの”

 彼女が普段いかに遊んでないかが証明されたようだ。

 ”あっ、一か所知ってるョ”

 と連れてってもらった先が、ディスコなのだが、なの有名な◯◯ホテルが立ち並ぶホテル街。その中でひときわ目立つ洒落た建物がある。

 あれぇ?ちゃんといい場所知ってるじゃない。全然知らないなんて言いながら。さては・・・!?

 ”あんたねェ、何勘違いしてんのよ!今このディスコがすっごく人気があってマスコミなんかで紹介してたのよ!!”

 なあんだ、私はてっきり恋人でも出来て、そろそろ女流王将も手離す決心をしたのかと喜んでたのに―。

(以下略)

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この時期、中井広恵女流六段と林葉直子さんが、将棋世界、将棋マガジン、近代将棋にそれぞれこのような面白い文章を書きまくっていたのだから、将棋誌的にものすごく楽しく賑やかな時代だったのだと思う。

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「私、酔っちゃったみたい・・・・・・」

言われてみれば、女性のこのような台詞を、私は個人的には今まで聞いたことがないかもしれない。

一度でも聞いてみたいものだ。

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ここに出てくるスキー旅行は、いろいろと文献を調べた結果、1991年1月の志賀高原でのことではないかと推察される。

写真によると参加者は(タイトル・段位は当時)、

中井広恵女流王位、林葉直子女流王将、山田久美女流二段、

中田宏樹五段、先崎学五段、小倉久史四段、(もう一人男性が写っているが、帽子とサングラスのため、誰かは判別不能)。

写真の男性棋士の誰かが、中井広恵女流王位を置いてきぼりにして、滑っていったということになる。

しかし、中井広恵女流六段は稚内出身。

スキーは誰よりも上手なはずだが・・・

ちなみに、写真で見ると、中井広恵女流王位はウサギの耳がついた帽子を一人だけ被っている。

中井広恵女流六段は、将棋を指している時には大柄に見えるが、普段は小柄。

写真の中井広恵女流王位、ウサギの耳がついた帽子がとてもよく似合っている。