井上慶太七段(当時)「ワシ、こんなん一回でええからやってみたかったんですわ」

将棋世界1997年1月号、神吉宏充六段(当時)の「今月の眼 関西」より。

 11月17日は将棋の日。関西将棋会館は空前の賑わいをみせていた。「こんなにファンが来てくれたのは、初めてじゃないですか」。若手棋士は誰もがそう口を合わせる。黄金時代を迎えていると言われる将棋界だが、今日の賑わいはそれだけではない雰囲気が漂っている。そう、総勢600人を超えるファンの視線のその先には、NHK連続ドラマで見慣れたあどけない2人の顔があったのだ。

 『ふたりっ子』は大ヒット番組である。視聴率は30パーセントを超え、あの大河ドラマ『秀吉』をも抜いた。朝の弱い私でさえ、毎日その時間だけは起きて見てしまうのだから、『ふたりっ子』の魅力、いや魔力は凄いものがある。

 主人公は双子の元気な女の子で、ダブルヒロインの繰り広げる人生模様が、何とも面白く、歯がゆく、泣かせるものがある。嬉しいのはヒロインの一人が将棋のプロ棋士を目指すところである。男性社会と言われる将棋界、女性で初めて奨励会を卒業できるのかどうか?側面を固める俳優陣も銀じいや米原名人など、いい味を出している。本当、細かいところまで将棋界をよく調べ、良く練っている。とにかく、一般の視聴者をも釘付けにする将棋番組の誕生は、期待と感謝の気持ちで一杯だ。ありがとう香子ちゃん、ありがとうNHKさん。

 ということで、そんな人気者の野田香子役の岩崎ひろみさんと、野田麗子役の菊池麻衣子さんを一目見よう、サインをもらおうと長蛇の列。そして最後に谷川九段と井上七段、神埼六段と私を相手に寸劇を演じてくれる大サービスぶりであった。そうそう、寸劇のヒーローは井上七段。「ワシ、こんなん一回でええからやってみたかったんですわ」。彼の役は2人のお父さん役。奨励会入りしたいという香子に「出ていけ!」と叫ぶシーンである。「ハイ、スタート!」神埼ディレクターの声に慶太親父、気合鋭く台本を見ながら「出ていけ~」。すかさず香子さん小さい声で「そのセリフ、まだです」 「へ?まだでっか」

(以下略)

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『ふたりっ子』は、1996年度下半期(1996年10月7日~1997年4月5日)に放送されたNHK朝の連続テレビ小説。

作・脚本の大石静さんは、この作品で第15回向田邦子賞を受賞している。

ビデオリサーチによる関東地区での期間平均視聴率は29.0%。

1994年から今日に至るまでのNHK朝の連続テレビ小説では、期間平均視聴率はトップ。

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『ふたりっ子』のダブルヒロインの一人(野田香子役)が、現在NHK Eテレの『将棋フォーカス』の進行役をつとめている岩崎ひろみさん。

井上慶太九段はこの10月から『将棋フォーカス』で講座を担当しているので、

「出ていけ~」

「そのセリフ、まだです」

「へ?まだでっか」

というやりとりのあった二人が一緒に出演していることになる。

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井上慶太七段(当時)が演じた野田香子・野田麗子のお父さん役(野田光一)は、テレビでは段田安則さんが演じている。

お母さん役は手塚理美さん。

三倉茉奈さんが野田麗子の少女時代、三倉佳奈さんが野田香子の少女時代。

三倉茉奈オフィシャルブログ「三倉茉奈のマナペースで行こう」

三倉佳奈オフィシャルブログ「三倉さんちの次女ブログ」

故・大田学さんをモデルにしたと言われる銀じい(佐伯銀蔵)は中村嘉葎雄さん。

オーロラ輝子は 河合美智子さん。

米原名人は桂枝雀さん。

プロ棋士では、羽生善治六冠、内藤國雄九段、谷川浩司九段、神吉宏充六段、有吉道夫九段、神崎健二六段、平藤眞吾五段、島朗八段、長沼洋五段、井上慶太七段、森内俊之八段が出演している。(タイトル・段位は当時)

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当時、私が近所の書店で将棋世界だったか近代将棋を買った時、店主の優しそうなお婆さんが、「ふたりっ子いつも見てるけど、わたしも将棋を覚えてみようかしらね」と話しかけてくれた。

とても感動的だった。

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しかし、ブームは移ろいやすいもの。

羽生七冠フィーバーと『ふたりっ子』は同じ年度のことだったが、その年度に将棋マガジンは休刊になり、近代将棋は経営権が変わった。

本当に難しいことだと思う。

   

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