大山康晴十五世名人が藤井猛四段(当時)の振り飛車を評する。
将棋世界1992年8月号、「大山の振り飛車実戦道場」より。第42期王将戦 藤井猛四段-青野照市八段戦。
大山十五世名人がポイントポイントで指し手に短いコメントを述べる方式。
藤井猛四段の三間飛車からの出だし。
△6五歩=あまり見たことがない早仕掛け。後手の意図は?
△9六歩=主眼の一手。端で一歩を入手して△6七歩と打つ狙い。しかし、これで振り飛車が悪いとは思えない。
(以下、▲同歩△同香▲同香△6七歩▲9三香成△8一飛▲5八金)
▲5八金=なかなかこうは上がれない金。力強い受け方。
(以下、△6八歩成▲同金△6六銀▲5九角)
▲5九角=余計な受け。▲9二成香から▲9九飛で攻め合うべきか。
(以下、△7五歩▲同歩△8四飛▲3五歩)
▲3五歩=△同歩なら▲3四香の狙いだが・・・
(以下、△5五歩▲3四歩△5六歩▲3七香△7六歩▲8三成香)
▲8三成香=非常手段。以下▲7四歩から小駒を持って玉頭の反撃狙い。
(以下、△同飛▲7四歩△7七歩成▲同金△5七歩成▲3三歩成)
▲3三歩成=王手で角の利きを止める切り返しだが、このあたりは居飛車ペースの展開。
△2四香=変調な順。後手駒得ながら大駒が遊んでいるので、意外と大変。△3五桂(▲同香なら△同歩の後、△2四銀で角筋を通す)または△2五桂▲3六香△6五桂▲同金△3五歩▲同香△3四歩と。3七香の利きを止めたい。
▲3八銀打=続く▲3七銀打と力強い受けで振り飛車優勢になる。
(以下、△2五香打▲3七銀打△4四角▲3六歩△4九金)
△4九金=重い手。これくらいしかないようでは勝負あった。
(この後、▲3五歩△5九金▲3六桂以下、藤井四段の勝ち)
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3図の▲5八金、9図の▲3八銀打、それに続く▲3七銀打と、藤井猛四段(当時)の力強い受けが非常に印象的であり、大山康晴十五世名人も高く評価している。
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「大山の振り飛車実戦道場」は、1回で5局ほどの振り飛車の戦いを取り上げ、大山十五世名人がそれぞれ講評するという連載企画だが、大山十五世名人はこの号の原稿を書いて間もなく再入院し、7月26日に亡くなる。
大山十五世名人がもっと長生きをして、藤井システムを見たなら、どのような講評をしていただろう。
とても興味深いことだと思う。
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奨励会の頃から大山康晴十五世名人の将棋に影響を受けた藤井猛九段。
藤井猛九段が大山康晴十五世名人の振り飛車を分析・解説した著書が「現代に生きる大山振り飛車」(鈴木宏彦さんとの共著で2007年に将棋ペンクラブ大賞技術部門大賞を受賞)。
現代に生きる大山振り飛車 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2006-12 |
読み物が面白いし、振り飛車の勉強にもなるし、大山将棋の真髄も知ることができる一石三鳥の名著。
今度の正月にでも読み直してみたいと思っている。