将棋世界1995年2月号、大崎善生編集長(当時)の「編集部日記」より。
今月は趣向を変えて、読者の皆様からの葉書にあった一言を紹介してみます。
(中略)
加藤一二三九段「わが激闘の譜」は面白かったですね。何が面白いって本文に入る前の将棋とはまったく関係ない音楽のウンチク。加藤先生があの早口でまくしたてている様子が文中、行間から感じられ、読んでいて笑いが止まりませんでした。個性が感じられる文章は、本当に楽しいですね。
(大阪市 Sさん 29歳 会社員)
▽中原永世十段も大喜びしたという極秘情報も入っております。今月は表紙にドカンといってみました。早口な原稿もご覧ください。
—–
加藤一二三九段「わが激闘の譜」は、将棋世界1995年1月号から連載開始された加藤一二三九段の自戦記。
リアルタイムの自戦記ではなく、対大山戦、対升田戦など、過去の名局が題材となっているところが大きな特徴だ。
そして、もう一つの際立った特徴は、はじめの1ページ近くが、将棋とは全く結びつかないキリスト教の信仰やクラシック音楽に関することが書かれていること。
このスタイルは連載終了まで貫かれた。
ところで、大阪市のSさんが激賞している1月号の自戦記は、1968年の十段戦第4局、大山康晴十段との一戦。
第1回目で取り上げているだけあって、加藤一二三九段が紹介したくて紹介したくて仕方がないほどの自慢の一局。7時間考えて編み出した絶妙手も登場する。
—–
後藤元気さん編の「将棋自戦記コレクション」が8月6日に刊行された。
「将棋自戦記コレクション」には28作の自戦記が収録されており、1作を除いて棋譜を理解できなくても面白さや雰囲気や背景のドラマが充分に伝わってくる自戦記ばかり。(1作を除いての1作は、升田幸三実力制第四代名人の自戦記。升田式石田流から△3五銀の天来の絶妙手が指された一局で、これはそのようなことを超越して、なくてはならない歴史的な記録)
上記の将棋世界1995年1月号に掲載された加藤一二三九段の自戦記も収録されている。
収録されている自戦記の筆者は、(掲載順、敬称略)
行方尚史、甲斐智美、森内俊之、加藤一二三、桜井亮治、新井田基信、広瀬章人、桐谷広人、米長邦雄、西山実、伊藤能、屋敷伸之、林葉直子、谷川浩司、小野修一、森下卓、佐藤天彦、升田幸三、久保利明、田中魁秀、前田祐司、島朗、青野照市、行方尚史、千葉涼子、橋本崇載、佐藤康光、渡辺明。
行方八段は奨励会時代と五段時代の自戦記で2回登場、屋敷六段(当時)の超ユニークな自戦記、伊藤能三段(当時)の運命の一局、桐谷六段(当時)の因縁の対局、久保八段(当時)の新手登場の一局などなど、見逃せない自戦記が続く。
後藤元気さんの前著「将棋エッセイコレクション」と同じく、将棋の楽しみ方をより広げるという視点が貫かれた一冊だ。
将棋自戦記コレクション (ちくま文庫) 価格:¥ 1,296(税込) 発売日:2014-08-06 |