行方尚史五段(当時)「こいつと酒を飲んで馬鹿話をしたいなと思わせる面白さだった」

将棋世界1998年5月号、行方尚史五段(当時)の連載自戦記(C2順位戦 深浦康市六段-行方尚史五段)「作戦負けの理由。」より。

 先日のA級順位戦最終日、三階事務局で棋譜を並べていると、珍しく古河さんが話しかけてきた。NHK杯でおなじみの一度聞いたら忘れられない素敵な声で、「行方君、こないだロッキン・オンの人と会った?」とニコニコしながら尋ねてくるのだ。

 将棋会館における会話で、音楽誌の名が出てくることなどまずあり得ないことなので、まずそのことに驚いていると続けて、「今度、私の弟がロッキン・オンに入ったの」と古河さんが言ったので、僕は思わず「エッ」と声を上げてしまった。

 数多くある音楽誌の中でも「ロッキン・オン」はアーチストの内面まで深く突っ込んだインタビューに定評があり、僕のような音楽中毒者にとっては、毎月目を通さずにはいられない、いわば音楽界の「将棋世界」に値するような雑誌なのだ。

 しばらく、古河さんと弟さんの話で盛り上がったが、古河さん自身は弟さんの仕事のことをまだよく把握していないらしい。それでも弟さんのおかげでスピッツのニューアルバムを一足早く聴けたと言って喜んでいた。

 ロッキン・オン・ジャパン最新号を買った。スピッツの「フェイクファー」合評のところに、古河君のデビュー・レビューが載っている。なかなか鋭いところを突いた内容だった。こいつと酒を飲んで馬鹿話をしたいなと思わせる面白さだった。

 将棋界も音楽界のように、しっかりとした評論を書ける人が増えて行けば、もっと文化的に成熟できると思う。

(以下略)

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ここに出てくる古河さんは、現在の真田彩子女流二段。

ロッキン・オン・ジャパンは、毎回、40組以上のアーティスト (歌手、バンド) のインタビュー記事が掲載される邦楽ロック、ポップス専門の音楽雑誌。

調べてみると、古河晋さんが2004年に四代目編集長に就任したとある。

株式会社ロッキング・オンなどのロッキング・オングループ全体で社員数が65名という人数なので、古河晋さんが真田彩子女流二段の弟である可能性が非常に高い。

たまたまかもしれないが、古河晋さんは『3月のライオン meets BUMP OF CHICKEN』のホームページにメッセージを寄せている。

3月のライオン meets BUMP OF CHICKEN(古河晋さんの文章はページの一番下)

ちなみにロッキング・オンの社長は、伝説的な音楽評論家の渋谷陽一さん。

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それにしても、「こいつと酒を飲んで馬鹿話をしたいなと思わせる」という形容詞は非常にインパクトがある。

行方尚史八段らしい表現と言えるだろう。