将棋世界2005年3月号、「誕生!20歳の新竜王 渡辺明」より、佐藤康光棋聖(当時)の「新竜王に想う」より。
今回の竜王戦は改めて一局毎における勝利、一勝の重みを十分に感じさせてくれた勝負であった。
最終局二日目の朝。やや森内有利か、と私は思っていた。しかし、そこからの森内竜王の指し手の乱れ方は見た事がない。有利な時は徐々にはっきりと道筋を立て、不利な時も必ず一手違いに喰い付いてくる森内流としては尋常ではなかった。昨年竜王位に就いてから全速力で突っ走ってきた疲れがこの一日に全て出てしまったという感じだ。
渡辺新竜王は第5局の勝ち方が大きかったと思うがそれにしても最終局は大変な状況の中よく勝ったと思う。これは偉い。
これから新世代の台頭もあると思うが、谷川棋王から渡辺新竜王まで22年の開き。羽生、森内らの70年生まれは特別として、どの歳にも天下を狙う人が一人いるとすると約25人程か。ここから毎年2、3人ずつ誰かが入れ替わり戦いが続いていくのだろうか。
渡辺新竜王の強さは中々見えにくい所があって正直私にはまだよく分からない。バランスの良さは感じるが、特別突出している部分がある筈。それがなければ竜王位には就けない訳だがこれはその内はっきりと見えてくるだろう。
しかし既に一児の父であるというのは驚きである。私が彼の年の時は全く女性というものを知らなかった訳でこれは手合い違い。
ともかくこれから益々戦いは面白く、激化していくのであろう。
——–
佐藤康光九段は、この文章を書いた約5ヵ月前の2004年8月1日に結婚式を挙げたばかり。
そのような感慨もあって、「しかし既に一児の父であるというのは驚きである。私が彼の年の時は全く女性というものを知らなかった訳でこれは手合い違い」という感想が出てきたのだと思う。
——–
そういえば、佐藤康光九段は若い頃の先崎学九段などから「モテ光君」と呼ばれていたが、これは佐藤康光九段が28歳だった1997年頃からのこと。
佐藤康光九段が20歳前後の頃は、当時の記事を見ると、同世代の棋士に比べかなりストイックな志向だったことが分かる。
1989年~1990年の近代将棋の若手棋士インタビューの記事から、佐藤康光九段と同世代の棋士の回答を抜粋してみた。(タイトル、段位は当時)
Q7.好きなタレント、歌手は?
森内四段…南野陽子、Wink
村山五段…たくさんいます。
郷田四段…荻野目慶子
佐藤五段…いません。
羽生竜王…菊池桃子
Q8.本はどんなものを読みますか?
森内四段…西村京太郎、赤川次郎
村山五段…エドマクベイン、ブラックベリー
郷田四段…普通の小説
佐藤五段…あまり読みません。
羽生竜王…推理小説。エラリークイーン
Q9.こわいと思うことは?
森内四段…交通事故
村山五段…あまりない。
郷田四段…女性
佐藤五段…なまけぐせ。
羽生竜王…病気
Q10.いま一番ほしいものは?
森内四段…ガールフレンド
村山五段…あまりない。
郷田四段…恋人
佐藤五段…英会話の実力
羽生竜王…特になし
このような意味でも、佐藤康光棋聖(当時)は自分が20歳の頃のことを思い出していたのだろう。