将棋世界1985年10月号、高橋道雄六段の第26期王位戦〔加藤一二三王位-高橋道雄六段〕第3局自戦記「結果は後から………」より。
外は30度を越え、かなり暑い(らしい)。
来道した三度、何れも猛暑で私には「北海道は暑い」のイメージしかない。
昨年は第2局、北見温根湯温泉で行われた。北海道らしく普段はクーラーなど無用とのこと。当然その設備が無い。
こりゃたまらん、とクーラーを付けてもらったのはいいけれど、その力が私の方まで届かない。対局中は汗のかき通しだったのを憶えている。
その対局はその後珍エピソードがあった。
二日目の最終盤。誰かが窓を開けた為に、虫が対局室へ大挙して乱入。盤上をも我が物顔で飛び回る。
双方秒読みである。そんな事かまっていられる状況ではない。
ビシッビシッ。可哀想に盤上が虫たちの墓場と化した。盤上まっ黒。
妙な体験であった。
(以下略)
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北見温根湯温泉で行われた1984年の王位戦第2局は、高橋道雄王位(当時)と加藤一二三九段の戦いで、高橋王位が勝っている。
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盤上まっ黒になってしまったということは、ブヨの比率が高かったと考えられる。
加藤一二三九段は思いっきり力強く駒を打ち付けるので、相当の数の虫が一手ごとに盤上に張り付くことになったことだろう。
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春や夏の季節、対局中に窓を開けると、対局室が集虫灯と化してしまう。
窓を開けたわけではないが、テレビカメラ用のケーブルが引かれていることによってできた障子のわずかの隙間から大量の虫が入り込んできたのが1995年の名人戦第1局。
最終盤ではなかったためか、関係者が虫を撃退した。
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晩秋なのに大量の虫が出たのが、出雲大社「勅使館」で行われた1995年の竜王戦第3局。
寒くなってきたので電気ストーブを急遽入れたところ、冬眠中の虫たちが起き出してきて…という展開。この時は観戦記者(武者野勝巳六段)と記録係(野月浩貴三段)と担当記者(小田尚英さん)が虫を排除している。
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テレビ東京の早指し将棋選手権戦で、スタジオ内を飛んでいた1匹の虫を一撃で退治したのが、対局中の加藤一二三九段。
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1995年の名人戦第1局ではブヨが多く入ってきた。
蚊取り線香でブヨが近づかないのなら、それはそれで一つの風情だが、ブヨに普通の蚊取り線香はほとんど効き目がないという。
どんなことがあっても対局室の窓は開けない、というのがタイトル戦における鉄則なのではないかと思う。