将棋世界2004年4月号、増田裕司五段(当時)の「関西将棋レポート」より。
エピソードといえば、関西将棋会館で掃除、洗濯、奨励会員にアドバイス等々、お母さん的存在の楢原嘉子さんに話を聞いてみた。
Q.何年前から連盟で働いているのですか?
A.17年めになるのかなあ
Q.初めての連盟の印象は?
A.一番最初、ビルの中に対局場(江戸城を真似て作った)があるのがビックリしてねえー
Q.対局中に、おしぼりを出していただきましたが…
A.対局場に入ると、いつも緊張の連続で…。4、5年前かなぁー「失礼します」って対局場に入ったら米長先生が上座に座っておられて、鼻歌で「ちっとも失礼じゃあ~ないですよぉ~」って言われて吹き出しそうになったけど、それから気分がほくれたわ。
話が変わるけど、一番つらいのは、奨励会の子が辞めていく時やねー。ほんとにいい子達が辞めていくのは心が痛むわ。何年か経って「楢原さーん」って連盟に会いに来てくれる時は、すごくうれしいけど。
楢原さんがいると心が和むのは私だけではないだろう。
1図は児玉-伊藤戦で、伊藤六段が△2七飛と打った局面。ここからの手順がすごかった。
1図以下▲5八金!!△2五飛成▲4八桂!!△1五歩▲5五歩△4五竜▲6七銀△4三角▲6五歩△同角▲6六飛!!△4三角▲6五歩(2図)
私はこの棋譜を並べて、これが関西将棋だと感動したが、児玉七段の手順は力強く、自分をさらけだした人間臭さが感じられる。
3図はその最終盤。
伊藤六段の△7三同銀に▲8五桂!!△7二歩▲8六銀!!△2五竜▲3五歩△同竜▲7四歩!!△4六竜▲7三歩成△同歩▲7五銀まで児玉七段の勝ち。
手順中、▲8六銀に△6六金は▲9四桂△9二玉▲7三角成で寄り。▲7四歩に△同金は▲3五角で竜がタダ。
児玉七段の会心譜であった。
終局後、両者は練習将棋を。
伊藤「練習将棋はゆるめてくれるからなぁー。けど気持ちがちょっとは楽になったわ」
(以下略)
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楢原嘉子さんが今もご勤務されているのかどうかは分からないが、このような方が思い出話を書けば、良い話や面白い話がたくさん出てきそうだ。
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児玉孝一七段(当時)の▲5八金~▲4八桂が、何もさせないぞという手順。
形が乱れるし桂を手離して専守防衛させるのだから、感覚的には指しづらいところ。
そして、目標は後手の6四桂を殺しにいくことであることがわかる。
3図からの▲8五桂(△同金なら▲7四歩)~▲8六銀も凄い食いつき。
関西将棋と呼ばれる発端は阪田三吉なのだと思うが、本当に力強く感じられる。
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対局が終わった後も練習将棋をするところが、児玉孝一七段と伊藤博文六段(当時)の仲の良いところ。