「対局者の楽しみは二人で一人分だ」

将棋世界1985年11月号、日本経済新聞の表谷泰彦さんの第33期王座戦五番勝負第1局・第2局レポート「中原、谷川再び相まみえる」より。

 加藤治郎名誉九段は常々「料理のうまさも景色の美しさも温泉の楽しみも勝った方がすべて独占してしまうもの。敗れた方は死にたい気持ちになる。対局者の楽しみは二人で一人分だ」と言う。

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タイトル戦の立会人を数多く務めてきた加藤治郎名誉九段の名言。

1日目から緊張の局面が続く現代のタイトル戦においては、料理の味や温泉や景色を本当に味わえるようになるのは対局終了後からになると思う。

勝てば、それまでの味を感じることができなかった食事も無味乾燥に目に映っていた景観も、すべてが良い思い出に転換されることになるのだろう。

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高校入試の時の昼食は何を食べたか覚えていない。あるいは食べていないかもしれない。

入試の真っ最中、何かを食べようという気にはなかなかならない。

タイトル戦の時の食事に似ている感覚なのだと思う。

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大学入試の時の昼食は覚えている。

すでに、東京の私大の合格が決まった後の、地元(仙台)の国立大学の入試。

東京の私大は受験科目が3科目なので昼食の時間はなかったが、国立大学は6科目なので一日がかり。

現代国語と数学だけが得意科目で、物理、化学、日本史の成績が全く思わしくなかった私は、はじめから国立大学は諦めていた。

昼食は母が作ってくれたカツサンド。東京でこれから始まる大学生生活のことを楽しみに考えながら食べたので、とても美味しく感じられた。

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大学入試がカツサンドということは、高校入試の時もカツサンドだったに違いない。

それでも高校入試の時の昼食は覚えていない。

入試は、タイトル戦での気持ちを理解できる、数少ない機会なのかもしれない。