将棋世界2005年3月号、「時代を語る・昭和将棋紀行 第18回 内藤國雄九段」より。聞き書きは木屋太二さん。
華麗な棋風の内藤九段は、詰将棋作家としても知られている。鮮やかな短編と中編。そして実戦初型の裏表、”ベンハー”などの大作は、将棋ファンをうならせるに十分だ。
九段は12歳の時に伊藤看寿の”将棋図巧”と出会った。将棋とは、こんなにすごいものか、と思った。びっくりすると同時に感動した。
「棋力は13級、詰将棋は5手詰めしか分からない者が伊藤看寿を見てすばらしいと思った。それが才能と言えば才能だったのかもしれない」と語る。
「囲碁やゴルフに比べて将棋は勝たなくては面白くないゲームですね。私の場合、勝てば当然非常にうれしいですが、相手に悪いことをしたような気になる。それで一時期は、勝てば必ず相手をお酒に誘った。こういうことでは第一人者になれるわけがないですね」
(以下略)
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アマチュアの場合は、勝って悪いことをしたような気持ちになるのは、お父さんやお母さんが応援に来ている小学生に勝った時ぐらいであるが、プロ同士の場合は対局終了後にもっと微妙な心の揺れがあるのだろう。
もちろん勝負に関しては非情になれるに越したことはない。
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2004年のことになるが、内藤國雄九段は木村一基七段(当時)に勝って、そのあと木村七段を連れて飲みに行っている。
これは、内藤九段が勝って悪いことをしたと思ったからではなく、純粋に木村七段と一緒に飲みたかったから。