将棋マガジン1987年6月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。
B1組順位戦が終わった日のことである。例によって、勝浦、西村、石田、前田、田中(寅)といったメンバーが、三々五々、いつもの焼肉屋に集まった。とりあえずビールで乾杯のあと、田中(寅)がつっと思いついたように言った。
「そうだったか、ボクが人間魚雷になれば、前田さんが落ちてたんだ」
前田ペコリ頭をさげた。
「ハッ!そうなんです。これから私は、田中さんのドレイになることをちかいます。ハッハッハ」
つまり、寅ちゃんが我が身を犠牲にして、魁秀さんに負ければ、前田が降級だったのである。
そんなことがあって数日後、前田から電話がかかって来た。
「青野さんと私で、田中さんと河口さんに、なんでも好きなものを御馳走します」というのである。遠慮なくお招きに応じ、六本木の中華料理店に出かけたが、さて、集まった顔を見ると、前田は、助かったばかりでなく、NHK杯戦優勝。青野はA級昇級。主賓の田中にしたって、テレビ東京早指し戦で優勝と、幸福な人ばかりだ。私はいいことなんか一つもなく、なんだかバカバカしいような気持ちになったものだった。棋士は人の不幸を我が幸福とする人種ですからね、そういった状態は最悪なのである。
冗談はさておき、順位戦が終わればこういった集まりが多くなり、おのずから、オフシーズンの気分になる。
(以下略)
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まさに、今頃の季節の話。
「棋士は人の不幸を我が幸福とする人種ですからね」
現代の棋士はこのような傾向ではなくなってきていると思うが、少なくともテレビのワイドショーは昔から、視聴率が取れるということから、人の不幸な話を中心に取り上げる作り方だ。
人間は他人の不幸な話を好むという前提(過去の視聴率データによる分析だと思う)で、特に今までメジャーだった人がスキャンダルや犯罪で凋落するという図式は最もワイドショー制作陣の歓迎するところのようだ。
人を呪わば穴二つ。綺麗事になってしまうが、そのような雰囲気とは無縁なところで過ごしていきたいものだ。