将棋マガジン1987年1月号、川口篤さん(河口俊彦六段・当時)の「対局日誌」より。
米長と谷川を見て、私はあることを思い出し、冗談めかしていった。
「今度両先生は、羽生天才に力を試されるようですな」
明日、谷川は羽生と対戦し、3日後には米長が羽生と対戦するのである。この2局はテレビ対局だが、前から注目されている。羽生が勝てばおもしろいと思うし、そう簡単に勝たれても困る、とも思う。みんな胸中複雑なのである。
米長と谷川が微苦笑したのを見てだれかが「二人で負ければ怖くない」だな、とまぜっかえして大笑いとなった。
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「今度両先生は、羽生天才に力を試されるようですな」と言われている1986年10月18日の早指し戦(対 谷川戦)、10月20日のNHK杯戦(対 米長戦)とも、羽生善治四段(当時)が勝っている。
「二人で負ければ怖くない」ではなく、雰囲気的には「負けても全然変に思われない、勝てれば御の字」に変わったのではないだろうか。
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藤井聡太七段が「二人で負ければ怖くない」のように思われていたのはいつ頃までだろう。
個人的には、2017年のAbemaTV「藤井聡太四段 炎の七番勝負」が放送される前までは「二人で負ければ怖くない」、藤井四段(当時)の6勝1敗という過程が放送され「負けても全然変に思われない、勝てれば御の字」に変わったような感じがする。
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高校入試の時、第一志望校に同じ中学から22人受験して、落ちたのは私を含めて2人だった。
「二人で負ければ怖くない」という気持ちはわかるが、この時の経験では、「二人で負けても一人だけ負けても何人で負けても、負けたことによる衝撃は変わらない」、ということだった。