近代将棋1985年3月号、読売新聞の山田史生さんの第23期十段戦〔中原誠十段-米長邦雄三冠〕第7局観戦記「米長、十段位をも制す」より。
1日目夕刻というのに進行は遅い。中原が36手目を考慮中、5時半の封じ手時間がきた。
立会人の花村九段が「封じ手の時間です」と告げたが、この表現は少し適切ではなく、正確には「5時半になりましたので、次の指し手は封じていただきます」というべきだろうか。繊細な中原十段だけに、すぐこの言葉に反応して「すぐ指さなくてもいいんでしょ。9時10分まで考えるかもしれませんよ」とニヤリ。
この9時10分という意味がすぐにわかった読者は、ものすごいほどの将棋通といえるのだが、何人ぐらいいらっしゃるものだろうか。
第16期の十段戦は中原と加藤一二三の対決、昭和53年1月9日に最終第7局が戦われたが、封じ手番となった加藤は、延々3時間12分考え、夜9時10分にやっと封じ手を行ったのであった。このことを指しているのだが、中原にしても、正確な時間をよく覚えているものだ。
しかしこの言葉は中原の冗談。5時38分には封じて1日目は終了。夜は会食のあと、碁を打ったり、テレビを見たりで過ごす。
(以下略)
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第16期十段戦第7局、封じ手までの3時間12分の長考の間、中原誠十六世名人は律儀に席を外すこともなく、正座して封じ手を待ち続けていたという。
「中原にしても、正確な時間をよく覚えているものだ」と書かれているが、片方の当事者、なおかつ待っていたほうなので、時間を覚えているのは自然なことのような感じがする。
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あまりに高度な冗談はごく僅かの人にしか通じないわけだが、「すぐ指さなくてもいいんでしょ。9時10分まで考えるかもしれませんよ」も同じ十段戦だから(読売新聞の山田さんは少なくとも知っている)言えた冗談なのかもしれない。