将棋マガジン1990年7月号、高林譲司さんの第1期女流王位戦五番勝負第2局観戦記「中井四段、一気に二連勝」より。
女流棋界の三強はさすがに強い。紅組リーグは林葉直子女流王将が全勝優勝。白組は中井広恵四段と清水市代女流名人の決戦となり、中井さんが1敗堅持で優勝。4ヵ月のリーグ戦を終えてみれば、出るべき人がしっかり出てきた。
直子アンド広恵。初代女流王位を手にするチャンスはたった一度だけ。メモリアル第1期の五番勝負には、この二つのビックネームがやはり一番ふさわしいだろう。
「第1期はやはり林葉直子だったといわれたいですね」と林葉さん。女流王将戦V9と、スゲエことをやってのけた直後だけに、大きな瞳はキラキラと自身たっぷりだ。
「恋人のいない人なんかに負けるわけにはいかないわ」と、新婚の中井さんも一歩も引かない。
この二人、普段はムチャクチャ仲がいいけれど、きつい勝負を何度となく戦い抜いて来ただけに、内に秘めたライバル意識は相当なものがある。
第1局は4月26日、札幌市の札幌パークホテルにて。東京より1ヵ月遅れの桜の開花宣言があり、青春真っ只中の二人の女流棋士が千歳空港に降り立って、北海道はいよいよ本格的な春。対局室の窓から見下ろす中島公園の緑も目に鮮やかだ。
立会人は女流棋士会長の蛸島彰子五段で、女流棋士初。記録も高群佐知子初段が担当し、まさに女流一色。第1期の第1局にふさわしい華やかな開幕となった。お目付け役、大盤解説もお願いした二上達也会長も終始、和やかな笑みを浮かべていた。
(中略)
第2局の立会人は塚田泰明八段。福岡市内、ショッパーズダイエーで行われた大盤解説は中村修七段が担当。若いスター棋士がコンビで同行してくれた。記録係はこれまた元気いっぱいの鹿野圭生1級。林葉、中井に加えてこれだけ美男美女がそろえば、盛り上がらないわけがない。
女流王位戦は正式に立会人が付き、対局規定も明確に文書化。対局も全国を巡り、主催紙の取材方法、記事掲載の形も男の王位戦とまったく同じ。北から北海道新聞、東京新聞、中日新聞、神戸新聞、徳島新聞、西日本新聞と、日本列島をまたにかけてデカデカと報道される。勝者予想の懸賞を行った新聞もあるほどで、関心度は第1期から上々だ。
(以下略)
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今年で第30期を迎える女流王位戦の第1期。
五番勝負第1局が中井広恵女流四段(当時)の出身地の北海道(北海道新聞)、第2局が林葉直子女流王将(当時)の地元の福岡(西日本新聞)と、両対局者と対局場と主催紙がピッタリ重なった第1期だった。
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「恋人のいない人なんかに負けるわけにはいかないわ」
親友かつライバル同士だからこそ言える言葉。
そうではない相手に言ったら、最高の盛り上がりを見せることになるだろうが、これはこれで大変なことになる。
もちろん、「恋人がいる人になら負けても構わない」と同義ではない。
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この第1期は、中井女流四段の宣言通り、中井女流四段が3勝0敗で勝って、初代女流王位に就くことになる。