「おい、知ってるかい。中田宏樹五段て、温和で虫も殺さない感じだろう。ところがオイチョカブをやると別人なんだ」

将棋マガジン1990年9月号、「公式棋戦の動き 勝ち抜き戦」より。

 巷の話。

「おい、知ってるかい。中田宏樹五段て、温和で虫も殺さない感じだろう。ところがオイチョカブをやると別人なんだ」

「どんな風に?」

「手付きがプロみたいに素早く、表情、仕種に味があるんだ。それに勝負に辛い。でもそれ以上にすごいのがあるけどね」

「何だいそれ?」

「将棋さ」

 先月号まで2人抜きの中田宏五段が、あれよあれよという間に6人抜きを果たしてしまった。

(以下略)

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中田宏樹五段(当時)は、ここまで米長邦雄王将、森安秀光九段、西村一義八段、内藤國雄九段、勝浦修九段、青野照市八段に勝って6人抜き、この号で有吉道夫九段に勝って7人抜き、次号で中原誠名人に勝ち8人抜きという快進撃。(大内延介九段に敗れ9人抜きはならず)

中田宏樹八段は羽生善治九段と四段になった時期がほぼ同じ頃だったため、中田宏樹四段(当時)が高い勝率をあげてもあまり取り上げられなかったという事情があるが、昔から実力者であることは衆目の一致するところ。

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将棋世界付録、「2000年棋士名鑑」には、中田宏樹八段に、なぜ「デビル」という渾名がついたかが書かれている。やはり、オイチョカブが関係している。

 元々中田宏樹には「ニヒル」という渾名がついていた。ある奨励会旅行の夜、中田は”おいちょカブ”で大勝ちした。オケラになった者に「お前はニヒルじゃなく悪魔だ。血も涙もないデビルだ!」と怒鳴られ、それ以来中田は「デビル」と呼ばれるようになった。

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今年の3月27日の竜王戦4組ランキング戦、中田宏樹八段-藤井聡太七段戦で、敗れはしたものの、中田八段が終始優勢に進めていたのは記憶に新しい。

NHK杯戦で中田宏樹八段の観戦を二度しているが、寡黙さの中に人柄の良さ、温かさが滲み出ているのが中田宏樹八段だ。

「正義のデビルがやってきた」

定跡を信用しない「創造派の三強」

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第32期王位戦七番勝負の挑戦者となった中田宏樹五段(当時)。将棋マガジン1991年9月号、撮影は中野英伴さん。