1勝あたりの獲得賞金・対局料(1990年)

将棋世界1991年6月号、「将棋界マネーアラカルト」より。

 プロ野球では、本塁打・勝利投手などの記録以外に、年俸に対する、ヒット1本・1球の価値を話題にすることがある。そこで本誌は、4月号に発表した90年獲得賞金・対局料の資料を元に、各棋士の1勝あたりの単価を計上してみた。A表は高額棋士のベスト10で、B表は低額側である。

A表

1勝あたりの単価 対局料順位
中原誠名人 1,994,000円 2
羽生善治棋王 1,870,000円 3
大山康晴十五世名人 1,600,000円 7
真部一男八段 1,582,000円 22
北村昌男八段 1,537,000円 50
谷川浩司竜王 1,315,000円 1
森雞二九段 1,121,000円 14
吉田利勝七段 1,023,000円 51
木村嘉孝六段 972,000円 115
石田和雄八段 864,000円 11

B表

1勝あたりの単価 対局料順位
丸山忠久四段 71,000円 126
郷田真隆四段 72,000円 124
高田尚平四段 104,000円 95
畠山鎮四段 106,000円 117
畠山成幸四段 108,000円 92
神崎健二五段 111,000円 89
中田宏樹五段 112,000円 78
阿部隆五段 120,000円 62
長沼洋四段 121,000円 106
藤原直哉四段 122,000円 97

 A表のトップは、6,000万円台で31勝の中原。さすが名人の貫禄である。獲得額で1位の谷川は勝ち星が48勝で、その分順位が下がった。

 竜王戦の活躍で5,000万円台の大台にのせた羽生は、89年62勝より半分ダウンの28勝で、ために2位となる。

 このあたりの数字のマジックが何ともおもしろい。

 A表には獲得額ベスト10とちがった顔ぶれが何人かいる。よくいえば効率よく稼いだのだが、実際には白星が少なかったわけで、当人にとっては複雑な思いのデータであろう。

 B表はA表をさかさにした順位で、C1に昇級した阿部を除いて全員がC2棋士だ。対局料の単価が安く、やたらと勝つ者が当然上位にくる。

 1位の丸山は28勝、2位の郷田は30勝、阿部に至っては42勝もした(記録は90年1月~12月)。

 A表の中原とB表の丸山を比較すると、中原が丸山の28倍となる。

 この現実が将棋界のクラス格差をよく示している。

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この当時は、順位戦のクラスで全ての棋戦の対局料が決まっていた。

そういうわけなので、郷田真隆四段(当時)や丸山忠久四段(当時)など、C級2組にいながら他の六大棋戦でどんなに勝っても、対局料は低いままだった。

このような制度が改定(順位戦以外は、順位戦のクラスに関係なく、勝ち進めば進むほど対局料が上がる)されるのは、この数年後のこと。

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2019年の獲得賞金・対局料のランキングが発表された。

2019年獲得賞金・対局料ベスト10(日本将棋連盟)

獲得賞金・対局料を2019年1月~12月の勝数で割った1勝あたりの単価を計算してみた。

もちろん、タイトル戦番勝負に登場、棋戦優勝、あるいは竜王戦でかなり勝ち進んだ場合に、1勝あたりの単価が上がってくる。

賞金・対局料 勝数 1勝あたり
豊島将之竜王・名人 7157万円 36 1,988,000
広瀬章人八段 6984万円 28 2,494,000
渡辺明三冠 6514万円 45 1,448,000
永瀬拓矢二冠 4678万円 42 1,114,000
羽生善治九段 3999万円 31 1,290,000
佐藤天彦九段 3687万円 15 2,458,000
木村一基王位 3209万円 24 1,337,000
久保利明九段 2178万円 25 871,000
藤井聡太七段 2108万円 47 449,000
斎藤慎太郎七段 1868万円 20 934,000

豊島将之竜王・名人の竜王獲得賞金は2020年になるので含まれていない。(逆に広瀬章人八段の2018年の竜王獲得賞金が2019年に計上されている)

1990年とは、給料制ではなくなった、対局料の仕組み自体が変わった、棋戦数の変化などあるので、一概には比較できないものの、1勝あたりの単価はあまり変わっていないと見ることもできそうだ。