中原誠十六世名人のタイトル戦でのエピソード

中原誠十六世名人のタイトル戦にまつわるエピソード。

近代将棋1997年8月号、故・池崎和記さんの「福島村日記」より。

—–

谷川-森下戦の全日本プロ観戦のため、神奈川県鶴巻温泉の「陣屋」へ。

(中略)

夜、庭でモチツキがあった。陣屋の名物行事らしい。中原永世十段(立会人)、谷川さん、森下さんの三人が陣屋のハッピを着て十番にキネを振り上げたのだが、谷川さんのとき、私の後ろにいた中年のご夫人(宿泊客)が、連れの人に妙なことを言っているのが聞こえた。

「あの人、悪役よね」。確かにそう言ったのだ。谷川さんは名人戦で羽生さんを追い込んでいる。きっと、ご夫人は熱烈な羽生ファンなんだろう。ここが鶴巻温泉で良かった。有馬温泉で言ったら、谷川ファンから「おばはん、何ゆうとんねん」と、すかさず反撃されるところである。

(中略)

中原先生から面白いことを聞いた。新聞の観戦記にも書いたのだが、ここでも紹介しておこう。

昔、中原先生が陣屋で加藤一二三九段とタイトル戦を戦ったときのエピソードだ。

「加藤さんが部屋をかえたことがあったんだ。それがちょうど僕の部屋の真上でね。ドシンドシンと歩く音がするから、加藤さんがいつ寝て、いつ起きたか、全部わかるんだ」

もう一つ、別の旅館でのエピソード。これは打ち上げのときに聞いた。たぶん、本邦初公開のはずだ。

中原「タイトル戦のときだけど、ちょうど台風の季節で、夜中に窓がガタゴト音を立てるの。うるさくて寝られないから、僕は窓のスキ間に下着を詰め込んだんだ」

池崎「えっ、自分の下着をですか」

中原「うん、でも、それでもダメだった」

池崎「それでどうしたんですか」

中原「部屋でじっと我慢してた。結局、朝まで一睡もできなかった」

池崎「ひやーっ。新聞社か旅館の人に言えば部屋をかえてくれたでしょう」

中原「いや、当時は僕も若かったから、そんなことが言えなかったんだ(笑)。今なら言いますけどね」

陣屋のおかみさん「中原先生も何も下着を詰め込まなくてもいいのに…」

中原「他になかったんですよ」

愉快なエピソードは、他にもいっぱい聞いたが、活字にできない話ばかりだ。

—–

私も一度、中原誠十六世名人が打ち上げの席(2003年竜王戦挑戦者決定戦第2局)で、タイトル戦でのエピソードを話しているのを聞いたことがある。今では有名になった大山名人の封じ手時刻の話。

「大山先生とのタイトル戦のときは参っちゃったよねえ(昭和46年以前)。1日目の午後4時頃、封じ手にしようと言うんだよね。どうせ1日目なんだから、早くやめて麻雀にしましょうよって。記録係の子に時間は適当に計算して加えておいてって。そりゃ大山先生は1日目は美濃囲いに囲うだけだからいいんだけど、僕は居飛車だから1日目からもの凄く考えなきゃいけないんだよね」

本当に楽しそうに話してくれるのだ。

コメントを残す