中井広恵女流六段による棋士の食事の話が面白い。
近代将棋1997年4月号、中井広恵女流六段の「棋士たちのトレンディドラマ」より。
(太字が中井広恵女流六段の文章)
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女流棋士は対局の時に昼食を抜く人が多い。というのも、女流棋戦は持ち時間が短いので、昼食休憩の時には局面が佳境に入っており、食欲が無くなってしまうのだ。
(中略)
ところが、何があっても食欲だけは落ちないという、繊細という言葉に全く無縁の人間が、植山悦行―私の主人である。
対局の昼休み休憩の時に、連盟のちかくのお寿司屋さんでお寿司を食べた後、お腹が空いたと、ステーキを食べたこともあるらしい。
主人の親友の大野八一雄六段が、
「神様が何でもいいから一つほしいものをくれると言ったら、植さんの胃袋が欲しいよ」
とうらやましがる。
健康なのは何よりだが、しかし、しかし。さすがの私も今回ばかりは呆れてしまった。
達六段(故・達正光七段)、奨励会員の池辺二段、植山、中井でゴルフの練習に行った時のこと。
一汗かいた後、達さんのよく行くとんかつ屋さんで夕食を食べようということになった。
達さんは後輩の面倒見が良く、時々奨励会員を連れて行っては、御馳走してあげているらしい。
そのとんかつ屋には『ジャンボとんかつ』という名物料理があって、キャベツ、ごはんを含めて2㎏にもなるほどの量だ。
ステーキと違い、衣が油っこくてかなりキツいらしい。
「植山さん、挑戦するでしょう。ここに来た人は皆食べてますよ。いかなきゃここに来た意味がないですよ」
そうだ、そうだと囃す。別に食べられたからといって、タダになるわけではない。
池辺君は以前にも何度か食べていて、それ以外は頼むつもりはないらしい。
あまり気乗りしない様子だったが「ダメだったら残せばいいじゃないですか」の一言で主人も決心した。
私のは主人の五分の一ぐらいのお肉。
それでも達さんに、
「女の人でこれを食べきるのはすごいですね」
と言われたのだから、主人のがいかに大きいかがわかるだろう。
それをとうとう食べちゃったのだ。「ごはんがないとたべられないよ」と、ごはんをおかわりまでして。
十代や二十代の若者ならともかく、今年で四十歳になる人間が、どういう胃袋しているの?
でも、もっと驚いたのは、食後のデザートを食べに来た次のお店で、池辺君がハンバーグ定食を食べたこと。いったい彼のお腹もどーなってるのかしら!?
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このジャンボとんかつの店がどこなのか調べてみた。
故・達正光七段は所沢市在住だったので、「ジャンボとんかつ 所沢」でGoogle検索してみたところ、一つの店に絞られた。
その店が「とんかつ司」。かなり評判の良い店のようだ。
完食すれば只という店ではないので、80%以上の確率でこの店だと思う。
ジャンボロースカツが650g。
それにしても、達正光七段は高柳門下、池辺二段は有吉門下なので、故・達正光七段は、本当に一門を超えての後輩思いだったのだと思う。
「とんかつ司」自戦記