アマにも勝てん日がある

昨日に続いて、湯川博士さんの「なぜか将棋人生」の「華麗なだけじゃあ将棋は勝てん」より、1985年当時の内藤國雄九段へのインタビュー最終回。

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―将棋の強い弱いにコンディションが大きく影響すると思うんですが、酒豪内藤さんはいかがです。

「あの『おゆき』のころですが、前の晩、地方回りから夜行で帰ってきて朝から対局なんてこともよくありましたけど(笑)、これ勝てっこないですよネ。不節制するとダメですね」

―お酒は。

「お酒は悪いね、将棋には。ホント言うと私の負けた半分は飲み過ぎやね。ハッキリ言って、アマにも勝てんような体調の日によく指しましたからね。兵庫県大会でもどうかというような日もネ(笑)」

―体力的なものは。

「ボクは体細いけど上部なんです。だけど、長時間やってて、息が切れる時があるネ、負ける時は」

―逆転される時というのは。

「たとえばタイトル戦で、序盤から少しずつ良くて、ちょっと優勢がハッキリしてくる。すると、フッと気が緩む、そうすると今までの昨日からの疲れがドッと出る。それが負けにつながるんやネ。反対にタイトル取る時いうんは、苦しくても、ずうっと体力消耗せんようにして頑張っている。息切れせんようにして相手が疲れてミスするのを待ってて逆転を狙う」

―そういえば、王位戦で中原さんからとった時は、内藤華麗流というよりも粘着流でしたね、

「あれは、正月にテレビとか新聞などで、タイトル獲得宣言をしたんですが、あんな泥仕合を投げないで指せたのは、宣言の手前、なんとしてもタイトルを獲ろうと思ったんで、気合が入りましたネ」

(中略)

「私はアマと平手でやるのも平気やし、プロはどんどん面白いことやったらええと思ってます」

―今はどこの棋戦でも同じような形で、同じような印象を受けるんですよ。

「そやね。勝っても負けても、どっちも傷つかんとかね」

―なにかこう真剣勝負的なものが見たいもんですね。

「たとえば私が百万用意するから、誰かやってこいなんてね(笑)」

―そうなると面白いですね。ちょっと過激ですけど。

「フフフ。面白いですね」

―昔、花田長太郎とか神田辰之助なんかが、何番抜きとか何番勝負とかやったような記憶があるんですが。

「どっちか負けたら引退するゆうのが、一番キツイ勝負ですね。銭金やのうて、将棋やめるゆうのが一番怖いやろね」

―こうゾクゾクするようなのを見たいもんですね。

「やる方はキツイけどな(笑)」

升田、大山は別格として、加藤、中原、内藤、米長というのは「棋才」という点では、それほど差があるとは思えない。しかし、結果は違ってきている。

内藤さんは、不躾な質問に実に率直に快く答えてくれた。答えはこのインタビューの中に十分入っていると思う。

内藤さんが「おゆき」によって棋士の存在を知らしめ、イメージを明るくした功績は、棋界の人が考える何十倍も大きい。これは、中原にも大山にもできなかったことで、内藤さん自身もこのことは自負している。これからも、他の棋士には出来ないことをやっていただきたいなあ、と思った。

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確かに、質問も大胆だった。

湯川博士流全開だ。

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湯川さんに、この頃のインタビューの秘訣を聞いてみた。

答えは、特に秘訣はないということだった。

しかし、余人に真似の出来ない技があることを知る。

湯川さんは、落語の芸名を仏家シャベル(ほっときゃ喋る)と付けられるほど、よく喋る。

インタビューに行ったにもかかわらず、世間話や自分に起きた出来事などを、どんどん喋る。

どんどんと。

これは、湯川さんが意識的してやっていることではなく、全くの自然な流れだ。

そうすると、インタビューを受ける人は、何かを話すつもりで心構えをしているにもかかわらず、何も喋れない状況が続く。

次第にフラストレーションが溜まる。

ようやく何かを聞かれた時に、思わずいろいろなことを喋ってしまう。

どうやら、こういう図式であることが判明した。

(インタビュー原稿は、ゲラの段階で本人にもチェックしてもらうので、出してマズいことは載らない)

しかし、これは誰にも真似ができないことだと思う。

自然体だからこそ成り立つ。

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